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ウクライナの教訓と台湾情勢

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スターリンク通信衛星を搭載して打ち上げられるスペースXのロケット
=9月4日、米フロリダ州(AP)

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2月にロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってからすぐに、日本や米国などの国々がサイバーや電磁波、宇宙など多領域におけるハイブリッド戦の教訓を活(い)かした体制強化に着手している。

 

 

日米が見せた素早い対応

 

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公開情報を見る限り、ウクライナへの軍事侵攻後、世界で最初にハイブリッド戦に対応した多国間サイバー演習を主催したのは、実は陸上自衛隊であった。

 

3月1日、陸上自衛隊通信学校は、米国、フランス、オーストラリア、フィリピン、インドネシア、ベトナムの6カ国と陸海空自衛隊のサイバー関連部隊を招き、「多国間サイバー防護競技会」を行った。

 

米欧やアジアなどの各国が参加した「サイバー防護競技会」の開会式=3月1日午前、東京都新宿区(共同)

 

共同通信によると、目的にはハイブリッド戦対応強化も含まれていたという。サイバー戦も含め、様々な攻撃への対応の悩みや知見を共有する貴重な場をいち早く陸上自衛隊が提供したことに、他国の軍も感謝したであろう。

 

その翌月の4月、米陸軍は、都市へのロケット砲やミサイルでの攻撃だけでなく、ソーシャルメディア上での事実に基づかない偽情報拡散や電波妨害(ジャミング)などの電子戦も展開する敵軍への総合対応能力を獲得するため、カリフォルニア州で6000人弱による2週間の演習を行った。

 

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また、米州兵主催の大規模サイバー防衛演習「サイバー・シールド」でも、6月、サイバー攻撃とソーシャルメディアによる偽情報拡散への対処をシナリオに盛り込んだ。様々な雑音がある中でも、兵士たちが任務に集中できるように訓練するのが目的である。

 

アーカンソー州で2週間弱行われたこの演習には、州兵だけでなく、民間企業の専門家も参加した。サイバーや情報戦の被害は一つの組織や業種にとどまるとは限らない。有事に備え、平時から官民連携して対応能力を高めようとの米国の強い意志が窺(うかが)える。

 

スターリンク通信衛星を搭載して打ち上げられるスペースXのロケット=7月17日、米フロリダ州(AP)

 

ウクライナがロシアからの情報戦に対抗し、国内外に情報を届けて支援を得続ける上で大きな役割を果たしているのが、米宇宙関連企業「スペースX」のスターリンク通信衛星サービスである。この対抗策を継続するには、スターリンクへのサイバー攻撃やジャミング攻撃に対する防御が重要だ。

 

 

宇宙、サイバー、電磁波

 

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4月、米国防総省国防長官府のデイブ・トレンパー電子戦部長は、ロシアからのスターリンクへのジャミングが報じられた翌日に、スペースXが即対応して被害を回避したスピードを絶賛し、米国政府も見習うべきだと強調している。

 

また、敵が宇宙やサイバーなど領域横断作戦を実施できるようになってきたため、米陸軍でも、特殊作戦軍、宇宙ミサイル防衛司令部、サイバー軍の戦場での連携強化をここ数カ月進めてきたという。8月に米陸軍が明らかにした。

 

インド陸軍も領域横断作戦に注目し、ウクライナにおける戦争での通信、サイバー、電磁波などの効果について研究している。

 

さらにインド陸軍は、7月下旬、インド宇宙研究機関の衛星サービスを用い、宇宙関連機器の作戦即応性を確認するための通信演習を実施した。

 

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台湾情勢への影響の懸念

 

留意すべきなのは、ウクライナの教訓を防御に活かす国ばかりとは限らない点だ。今後、インド太平洋でそうした知見が悪用される危険性について、リンディ・キャメロン英国家サイバーセキュリティセンター長官が5月の国際会議で警鐘を鳴らしている。

 

クリストファー・レイ米連邦捜査局(FBI)長官は、米国内で6月に講演した際、中国が今後のサイバー戦のため、ウクライナにおける戦いを研究しているだけでなく、台湾への攻撃に備えて、米国を抑止または妨害するための能力向上を模索中だと警告した。

 

ただ、レイFBI長官が単に危機感を煽(あお)るのではなく、民間企業に対する支援も提供しようとしているのには、注目すべきだ。

 

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7月上旬、レイFBI長官とケン・マッカラム英情報局保安部(MI5)長官はロンドンで共同記者会見した際、中国の動きについて注意喚起した。その上で、両長官は企業の経営層に対し、FBIやMI5と連携して適切なインテリジェンスを入手するよう呼びかけている。

 

共同記者会見するクリストファー・レイFBI長官(右)とケン・マッカラム英情報局保安部(MI5)長官=7月6日、ロンドン(AP)

 

各企業がサイバー防御強化努力を続け、従業員や顧客の個人情報や知的財産を守らなければならないのは当然だ。しかし、サイバーセキュリティが国家安全保障と有事の重要要素になっている以上、国家としての対応も求められる。

 

だからこそ、ウクライナや台湾情勢に関連してどのようなサイバー攻撃や情報戦の傾向が見られ、いかなる対策が必要なのか、政府はどのような支援を国民や民間企業に提供するのかなど、政府からの一層の情報発信が緊要だ。有事に備え、宇宙、サイバー、電磁波など領域横断演習も欠かせない。

 

それが国民・産業界に安心感を与えると共に、攻撃者への抑止にも繋(つな)がっていくだろう。

 

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筆者:松原実穂子(NTT、サイバー専門家)

 

 

2022年8月26日付産経新聞【正論】を転載しています

 

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