桜より吉野葛 古都で年中楽しめる「葛スイーツ」の妙味
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「日本一のサクラの名所」として名高い吉野山(吉野町)。地元観光業界の長年の悩みは、花見客でにぎわう春の観光シーズン以外の観光客の大幅な落ち込みだ。吉野の観光情報を発信する一般社団法人「吉野ビジターズビューロー」(北岡篤代表理事)は、名産「吉野葛」を使った新作スイーツを地元限定で提供し、閑散期の誘客を目指す新たな観光戦略を打ち出した。年内にも販売を開始する。
「飲食」目的少なく
町によると、世界遺産・金峯山寺や〝千本桜〟で知られる吉野山には、例年約80万人の観光客が訪れるが、このうち約4割が「観桜期」と呼ばれる開花シーズンに集中する。近年は紅葉シーズンの客足も増えているが、「繁忙期と閑散期の落差が激しいのが観光面での地域課題」と町の担当者。
このため、町と吉野ビジターズビューローは「通年で楽しめる吉野山に」をキーワードに、新たな観光戦略を模索していた。
町が平成28年に町内への宿泊客千人に実施したアンケートによると、来町の目的は「自然観賞」(37・5%)が1位で、「観光・行楽・散策」(28・7%)、「神社・仏閣巡り」(20・2%)と続くが、「飲食」との回答はわずか0・6%にとどまった。
そこで北岡代表理事が着目したのが、知名度の高い「吉野葛」だ。マメ科の多年草・クズの根から採取したデンプンを精製して作る食用の葛粉のうち、砕いたクズの根に吉野地方周辺の地下水を注いで製造する特別な工法「吉野晒し」で仕上げたものを「吉野葛」と呼ぶ。添加物を含まない自然食品で、和菓子や日本料理の食材にも使われる。谷崎潤一郎の小説のタイトルにもなっている。
北岡氏は「吉野葛を食材にしたスイーツを地域で商品開発し、名物グルメとして定着させては」と提案した。
新メニュー続々
吉野山で飲食店や土産店などを営む事業者は、今夏から各自で試作を重ねた。
旅館「吉野荘湯川屋」は、和洋の味が楽しめる「レアチーズ葛餅」を考案。若女将(おかみ)の山本ちはるさん(28)は「隠し味にブラックペッパーを添えて、宿泊客の年齢層にあった大人風味に仕上げました」と自信をのぞかせる。
一方、豆腐店「豆富茶屋 林」は健康志向の女性にアピールしようと、吉野葛を豆乳で溶かしてカロリーを控えめにした「豆乳ティラミス」を新メニューに加える予定。和菓子店「葛屋中井春風堂」では、シャインマスカットやナシなど奈良産フルーツを添えた「季節の葛まんじゅう」を作った。
「食べ歩きも楽しめる」
10月7日には、9事業者が手掛けた吉野葛の新作スイーツの試食会が、同町の吉野山ふるさとセンターで開催された。
福岡市のフリーライター、宮崎由希子さん(48)は「伝統的な吉野葛がモダンな味わいにバージョンアップされて食べ歩きも楽しめる」と笑顔。大阪市東成区の会社員、井上絢賀(あやか)さん(29)も「それぞれのスイーツで葛の食感が異なり、事業者のこだわりが感じられました」と高評価だ。
スイーツは、試食会の参加者の意見も踏まえて完成品に仕上げ、年内にも地域限定で順次販売する予定。
今回の観光戦略に協力したリクルート(東京)の田中優子・ご当地グルメ開発プロデューサー(46)は「添加物を含まない吉野葛を食材に選んだことで、各事業者が豊富な味のバリエーションや食感を演出することができる。季節に応じたスイーツを提供すれば、食べ歩きを楽しむ人も定着し、閑散期の誘客につながるのでは」と期待を寄せている。
筆者:西家尚彦(産経新聞)
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