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20年連続庭園日本一の足立美術館 引き継がれる「神管理」のバトン

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足立美術館内の「生の額絵」と呼ばれるスポット。窓枠から庭を見ると額縁に飾られた一幅の絵のようだ(同館提供)

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米国の日本庭園専門誌による2022年日本庭園ランキングで、足立美術館(島根県安来市)の庭園が20年連続の1位に選ばれた。丁寧で緻密な取り組みが「神管理」とも評されるが、結果が発表された昨年12月には、長年庭師たちを率いた庭園部の部長が勇退し、40代の新部長が誕生する世代交代があった。同館の創設者、足立全康氏(1899~1990年)の「庭園もまた一幅の絵画である」という信念を守りながら、連続記録の更新に向けた新たな動きを追った。

 

永島達二さん(右)と山本裕介さん(藤原由梨撮影)

 

アセビの花は咲かない

 

松の内の1月6日、庭園部の庭師たちが、足立美術館正面玄関「歓迎の庭」に植えられたアセビの花のつぼみを摘んでいた。

 

「花を咲かせると木が弱ってしまう。足立美術館では木の形を重視するので、花を咲かせないのです」

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昨年12月、庭園部長となった永島達二さん(47)は、密集した紅色のつぼみを摘む手を止めることなく教えてくれた。アセビは早春にピンクや白の鈴のような花をつけるが、この庭では咲き誇ることはない。

 

足立美術館の庭園は、地元出身の実業家だった全康氏が昭和43年から造園に着手した。総面積は約16万5千平方メートル。主庭の枯山水庭や横山大観の絵をモチーフにした白砂青松庭などで構成される。庭木の枝ぶりから石の配置まで、すべて全康氏の信念に裏打ちされているという。

 

地元の農林高校を卒業後、足立美術館一筋に30年間勤めてきた永島さんにとって、年明けのアセビの花摘みは毎年恒例の仕事だ。体に染み込んだ動きだが、現在、庭師は過去最少の5人となっている。「人数は少ないけれど、手を抜くことはできない」と、黙々と作業を進めていた。

 

Adachi Museum of Art

冬の枯山水庭(足立美術館提供)

 

「重いバトン」の継承

 

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ランキングを主催した専門誌「数寄屋リビングマガジン(ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング)」は、米国在住のダグラス・ロス氏が日本庭園を世界中に紹介するために1998年に創刊した。隔月発行で英語圏を中心とする世界37カ国の人々に定期購読されている。

 

2003年から始まったランキングでは、全国の約千の日本庭園から、世界各国の専門家約30人が選考にあたる。庭の規模や知名度によらず、質や建物との調和など「純粋にその美と質」によって評価し、毎年トップ50を公表してきた。

 

20年連続日本一に選ばれたことを足立美術館が発表した昨年12月15日は、偶然にも庭園部の前部長、小林伸彦さん(60)の退職の日だった。小林さんは生前の全康氏から直接薫陶を受けた先々代部長の故・杉原広市さんに教えを受けた一人。そしてランキング期間の大半を庭園部長として庭を守ってきた立役者だ。

 

永島さんは「私が部長になっても一年一年当たり前のことをやるだけ。結果として21年、22年と連続記録が伸びればうれしい」と話し、杉原さん、小林さんと継いできた「重いバトンを受け継いだ」と気を引き締めた。

 

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足立美術館の庭園に建つ足立全康氏の像。庭園日本一の碑も横に設置されている=島根県安来市(藤原由梨撮影)

 

若手が追い抜いて

 

同誌は、足立美術館の庭園の長所として「神管理」「予備用植栽の植えだめを持ち、問題があれば同サイズ、同じ枝ぶりの樹木に植え替えができる」などの点をあげている。

 

庭師による樹木の管理は徹底している。例えば、同館の庭師たちは雪が降れば、雪上の足跡が目立たないよう後方から庭に入り、手づくりのトンボでツツジなどの雪を払う。背の高い赤松は枝が一本でも折れないよう、「かぎっこ」と呼ぶ4~5メートルの棒の先に傘の柄のような部品を付けた道具で、枝をゆすって雪を落とし、樹木を守るという。

 

また、同館近くには仮植場があり、赤松だけでも約400本が育てられている。庭園の松が大きくなりすぎると、すぐさま周囲と調和したサイズの松に植え替え景色が変わらないようにする。

 

永島さんは「新しい庭を造るのは簡単だが、今の庭を変えることはない。いつ植え替えたのか分からないように管理するのが仕事。今の庭が足立美術館なので」と説明する。

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そして、「コロナ禍までは、外国人客や若い日本人も多く訪れてくれていた。プレッシャーもある」という一方、「気持ちはワクワクしている。今後、後輩を育てていき、後輩に私を追い抜いてもらいたい」と抱負を語る。

 

庭師の最若手、山本裕介さん(22)は期待を受け、「人数は少ないが今がチャンス。自分が頑張ればスキルが上がっていくと思う」と話す。今年の21年連続日本一に向け、同館は新たな歩みを始めている。

 

筆者:藤原由梨(産経新聞)

 

 

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