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新年の5つの国際潮流は日本への試練

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新しい年、2024年の世界はどうなるのか。そして日本はどんな国際課題に直面するのか。

 

世界の情勢はもちろんカレンダーの区切りに合わせて動きはしない。だが国際情勢を動かす人間にとっては往く年、来る年という暦の感覚はどの国でも共通しているだろう。人間の多くはその暦の分水嶺で立ち止まり、新たな展望を考える。私自身もそんな思いから新年の世界の予測を試みることとする。

 

私はこれまで報道の主要拠点をアメリカの首都ワシントンにおいてきた。だが東京で過ごす時間も少なくなかった。そんな時間の配分はこの論考でもアメリカから、そして日本、という複眼思考を可能にするだろうと思う。

 

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2024年の国際情勢の予測を冒頭でまとめるならば、アメリカの力の縮小による既存の国際秩序への激震、そして日本にとってはこれまで背を向けてきた軍事や主権という分野での危機に近い変動だといえよう。

 

2024年は世界情勢の主要プレイヤーとなる国での選挙の年でもある。まず超大国と呼べるアメリカの大統領選挙が11月に実施される。ロシアの大統領選挙は3月である。新年冒頭の1月には台湾の総統選挙がある。アメリカの次期大統領が誰になるかは、全世界規模の変動を起こしうる。ロシアの選挙ではプーチン大統領の再選が確実だが、それでも選挙自体の挙行が変化の兆しをもたらしうる。そして台湾の総統選挙は中国の習近平政権の動きを左右するといえる。

 

しかしそんななかで2023年からの継続のような世界の潮流もいくつかは顕著となろう。その流れが新年の国際情勢の特徴となっていく。そんな新年の流れを少なくとも5つ、具体的にあげてみよう。

 

 

1.アメリカの抑止力の後退

 

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2023年10月にイスラムのテロ組織ハマスがイスラエルに大規模な奇襲攻撃をかけたとき、アメリカのウォルター・ラッセル・ミード氏ら戦略専門家たちは「アメリカの軍事力を基盤とする抑止が弱くなった結果だ」と指摘した。

 

ハマスからすれば歴代アメリカ政権が全面支援してきたイスラエルに攻撃をかければ、当然、アメリカ自身が軍隊を投入しないにせよ、イスラエルに猛烈な反撃を断行させるというリスクは覚悟したはずだ。だがそれでも攻撃を実行したのは、アメリカの抑止力に支えられたイスラエル側からの反撃をそれほど徹底はしないだろうと判断した形跡が濃い。アメリカの抑止力の衰退への認識である。

 

それでなくても2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵略はアメリカの軍事抑止の危険をものともせず、という構えだった。現にバイデン大統領はロシアの侵略行動に対して冒頭から軍事手段はとらないという方針を明確にした。経済制裁で応じるとの言明だった。バイデン政権の軍事的抑止の忌避の傾向だったといえる。現にバイデン政権はトランプ前政権にくらべて国防予算の増額には明白なブレーキをかけていた。

 

中国の2023年の軍事行動をみても、アメリカの抑止を恐れないという態度は明白だといえる。台湾の防空識別圏への戦闘機、爆撃機の頻繁な侵入はトランプ政権時代にはなかった。イランと北朝鮮という反米国家も、2023年はアメリカの意向に反する好戦的な態度が顕著だった。新年にもこうしたアメリカの抑止を恐れない専制国家の挑戦的な動きが続くだろう。ただし11月のアメリカの大統領選挙で「強いアメリカ」政策を掲げるトランプ氏が当選するとなれば、話しは別である。

 

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台湾海峡で、米艦船(手前)に中国の軍艦が接近した=2023年6月3日(米海軍提供・ロイター)

 

2.軍事力の役割の拡大

 

この点は第1のアメリカの軍事抑止力の衰退と表裏一体となっている。世界のどの国も自国の安全保障や国際的な秩序にとっての軍事という要素をこれまでよりも重視する傾向が新年でも特徴となろう。

 

グローバルな規模でも領土紛争や経済紛争で軍事という要因が大きくなっていくだろう。ウクライナ戦争や中東紛争をみても、軍事衝突の帰趨が当事国間の関係を変える。国際秩序さえも変える。中国も台湾の併合には軍事的手段を欠かせないと宣言する。習近平政権は南シナ海や東シナ海でも軍事力を使い、あるいは使うと威嚇して、自国の権益を拡大していく。

 

北朝鮮もイランも自国の主張には常に軍事の威力を柱とする軍事国家である。そして両国ともその傾向を2024年にはさらに強めていくことが確実にみえる。

 

こうした国際関係の軍事化は各国間の主張の対立で本来ならば外交交渉、あるいは経済面での妥協ですませてきたところを軍事力への依存を高めるわけである。

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大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星18」の発射訓練を視察する金正恩総書記(左)ら=2023年12月18日(朝鮮中央通信=ロイター)

3.グローバリゼーションの後退

 

グローバル化とは国家と国家の境界を人や物やカネがより自由に動くことを意味する。グローバリズムといえば、その現象の概念あるいはそれを是とする思考を指す。その実態と理念の両方が2024年にはさらに後退するだろう。

 

グローバル化はここ数年、まず新型コロナウイルスの大流行によって大幅に制限されてしまった。どの国にとっても最初は中国から、さらには他のすべての諸国からコロナウイルスを保有するかもしれない人間の流入を抑えることが不可欠となった。

 

グローバル化にはそれでなくても「待った」がかかっていた。外国からテロリストが入ってくる危険が欧米諸国で広がっていたのだ。移民や難民、さらには不法入国者の大量な流入が国内でどんな混乱を起こすかは、ここ3年ほどのアメリカ国内でいやというほど立証された。バイデン政権もついにトランプ前政権が進めた「メキシコの壁」の再建を認めたのだ。

 

トランプ政権はそもそもグローバリゼーションへの正面からの批判までを明言していた。アメリカの国益重視こそ最優先という趣旨だった。数年前のイギリスの欧州連合(EU)からの離脱もこの種の流れの象徴だった。この国際潮流は2024年にも続くだろう。

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ロシア軍の無人機攻撃を受けた地域で作業する消防士=2023年9月3日、ウクライナ南部オデッサ州(ウクライナ非常事態庁提供・ロイター)

 

4.独立国家の主権の強化

 

国家間の協調がグローバル化の後退で減れば、各国家は独自の判断をより多く下すことを迫られる。自国自身の独自性、つまり主権の行使をより明確に、より強固に発揮することを求められるわけである。

 

バイデン政権は国際協調を強調した。トランプ前政権の「アメリカ第1」主義への反発が明白だった。だがそのバイデン政権がのぞむいまの世界には混乱や激動があまりに多くなった。その結果、バイデン政権も、そしてアメリカ主導の国際秩序に加わってきた諸国も
他国との協調よりも、まず自国の利害という方向への舵を顕著にしてきた。この流れは2024年でも確実となるだろう。

 

いまのアメリカでトランプ前大統領への支持率が高いのは、トランプ氏の掲げてきた政策への支持が強いからだろう。その政策の主体の「アメリカ第一」主義はまさにアメリカ合衆国という主権国家の主権の発動こそが自国民の利益の優先という自明の原則に基づく主権主張だった。

 

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アルゼンチンではこの12月、自国の利益を対外姿勢の中心に掲げるハビエル・ミレイ氏が新大統領となった。「アルゼンチンのトランプ」とも呼ばれたミレイ氏は明らかに国際協調よりもアルゼンチンの主権を優先させるような政策を打ち出している。

 

オランダでも反EU、反移民、自国の主権最優先という自由党が11月の総選挙で躍進し、党首のヘルト・ウィルダース氏が首相にもなりかねない状況が生まれた。イタリアで2022年10月に首相に就任したジョルジャ・メローニ女史も「極右」とまでのレッテルを貼られた自国の主権や国益の優先論者だった。

 

 

5.経済至上主義の崩壊

 

経済至上とは、国際問題で経済での他の諸国との関係が良好ならば、安全保障や政治など他の課題もうまくいくとする思考を意味する。自国の経済を繁栄させ、他国との経済の絆を強くすれば、非経済の政治、外交、安保などの諸課題も円滑になる、とする考え方だった。

 

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だが近年はこの「至上」が空疎だったことが立証されてしまった。その現実は2024年にも国際潮流となるだろう。

 

ウクライナ戦争は経済以外の政治要因こそが国際関係を動かすという現実をみせつけた。ロシアはウクライナとは経済の絆があった。貿易も活発だといえた。ロシアはさらにアメリカとも西ヨーロッパ諸国ともエネルギーの需給関係を主体として緊密とさえいえる経済の相互依存があった。だがその種の経済の共通性はロシアの軍事侵略により一瞬にして吹き飛んでしまったのだ。

 

中国の台湾への軍事威圧や東南アジア諸国からの領土の収奪も経済の絆によって抑制されるという兆しは皆無に近い。むしろ中国側は相手国との経済関係を非経済の懸案解決への武器として使う。経済は至上ではなく、手段なのだ。経済利益や合理性だけを追えば世界はうまくいくという考えは排されたといえる。

 

航空観閲式後、部隊を視察する岸田文雄首相(中央)=11月11日午後、埼玉県の航空自衛隊入間基地(岩崎叶汰撮影)

 

日本の試練

 

さて以上、5項目に区分した新年の世界の潮流は日本にとってみな深刻な負の矛先を突きつけてくるといえる。それら変動要因は戦後の日本の国家のあり方そのものを揺さぶり、チャレンジし、否定さえしかねないのだ。なぜなのか。

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まず第1のアメリカの軍事抑止力こそ、日本がこれまで自国の安全保障では全面依存してきた。第2の国際的な軍事力の役割拡大も軍事という概念自体を否定する傾向にあった日本には深刻な影を広げる。第3のグローバル化も日本が全面追求という形で長年、目指してきた国家目標ともいえるから、その後退や縮小は重大な負の変化といえよう。

 

第4の国家主権の比重の増大も、国家という概念を希薄にしてきた戦後の日本にとっては新たな試練となろう。第5の経済至上主義の崩壊も、この思考をまさにバイブルのように信奉してきた日本にとって衝撃的な変化とさえいえるだろう。

 

以上のように新年の国際潮流は日本にとって国難とも呼べる重大な諸課題を突きつけてくるのである。

 

筆者:古森義久(JAPAN Forward特別顧問、産経新聞ワシントン駐在客員特派員)

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