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「The Cove」から10年 太地町への活動家による嫌がらせ、文化的侵略

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和歌山県太地町のイルカ追い込み漁を批判的に描いたアカデミー賞受賞映画「ザ・コーヴ」が2009年に公開されて10年。イルカの食用屠殺の生々しい映像を隠しカメラで撮影したこの映画は、シー・シェパードなど欧米のアニマルライツ団体の関心を引き、活動家が太地町に殺到するきっかけとなった。一方で、南紀のひなびた漁村の日本人漁師たちをまるでサスペンス映画の怪しい住民か犯罪映画の悪党かのように描いたこの“ドキュメンタリー”は日本では好意的には受け取られなかった。

 

それ以降、大人数の海外の活動家が太地町を訪れ始め、ピーク時の2013~14年度にはその数は200名近くに達した。当初、町内に駐在する警官は1名しかおらず、彼らは示威行為を行ったり、漁師や加工業者を取り囲み罵声を浴びせたり、または、住民の通行妨害やカメラハラスメント、盗撮を行ったりして、嫌がらせをエスカレートさせ、一時はやりたい放題だった。その後、警察や海上保安庁の警備が強化され、これらの活動家はネット発信に活動を絞るようになっている。

 

近年は1シーズンに来る外国人活動家は30名程度だが、入国管理局(現・出入国在留管理庁)がシー・シェパードのリピーターを入国拒否し始めて以降は大幅に人数は減少した。その結果シー・シェパードは漁期中に活動家を途切れる事なく常駐させる事が出来なくなり、事実上、2017年度より太地町の反イルカ漁キャンペーンから脱落をしている。

 

シー・シェパードの他に、「ザ・コーヴ」の主役や「わんぱくフリッパー」の元イルカ調教師として知られる米国人のリック・オバリー氏がリーダーを務めるドルフィン・プロジェクトというもう一つの反イルカ漁団体は現在も漁期中に太地町に常駐している。“観光ビザ”のステータスでこの団体の活動家が太地町で行っている事は、同町でのシー・シェパードの活動と基本的に同じにもかかわらず、ドルフィン・プロジェクトの活動家は(2016年1月に拒否されたリーダーを除き)入国禁止をされたケースはないようだ。

 

これらの団体の主要戦術はフェイスブック、ツイッター、ユーチューブやインスタグラムなどソーシャルメディアを使ったネガティブキャンペーンである。警察や海上保安庁の警備の強化や、ネット技術の発展と共に、昨今、彼らの太地町での主な活動スタイルは、イルカ追い込み漁をリアルタイムで配信するインターネットライブにシフトしている。活動家たちは、イルカ漁が行われる状況を実況中継する役割を担いながらも、実況中には扇情的な表現や罵詈雑言的な言葉を使って、太地町の漁師らに対するヘイトを全世界に煽っている実態もある。

 

一般的に、これらの団体にとっての最優先事項は、団体の活動維持のための資金集めとより多くの支持者を集める事にある。だから彼らは、漁の実態をセンセーショナルに扱い、その効果的な手段としてヘイトスピーチを展開する。そしてヘイトスピーチの輪がネット上の支持層に拡散する。彼らは結果として、漁師やイルカトレーナーに対するネットリンチの材料を提供しているのだ。

 

以前から指摘されていることだが、ネット発信を行うだけのこうした「穏健な団体」は、実力行使に出る過激派の登場を期待している節がある。ヘイトスピーチをまともに受けとめた人物が、いわゆる「直接行動」に打って出ることが太地町でも起きている。

 

実際、太地町の湾内で、何者かがイルカを逃すために生簀の網を切るという器物損壊事件が過去3年でも2回起きている。また2017年10月には和歌山県白浜町のアドベンチャーワールドでヨーロッパ人活動家3名がイルカショーを妨害して威力業務妨害で逮捕される事件も発生した。

 

「ザ・コーヴ」の屠殺シーンは感情的反応を引き起こし、地方の食文化に対する嫌悪感と偏見を外部者にもたらした。太地町と同様に小型鯨類の追い込み漁「グリンダドラップ」が続けられている、北大西洋のフェロー諸島(デンマークの自治領)でも、シー・シェパードが妨害活動を展開した。しかし、フェロー諸島の少数民族の食文化への批判を展開した彼らの活動は、水族館用の生体捕獲も行なっている太地町での活動に比べると広範囲な支持を得られなかったようだ。

 

水族館は近代産業であり、活動団体側としてもこれは、レイシストの汚名を被るリスクのある伝統文化問題を回避できるうってつけのターゲットだ。そして近年はこの運動全体が食文化批判からイルカの飼育と商業利用への批判にフォーカスを移しているように見える。シー・シェパードのフェロー諸島での失敗の後は特に、太地町でこの団体の活動家が発信するスローガンがドルフィン・プロジェクトそっくりに変わったのも顕著だった。

 

日本の捕鯨が批判されて以来、特に調査捕鯨が活動団体に妨害されるなどして、海外の価値観を押し付けられていると感じている日本人は保守派のみならずそもそも多かったのだが、2015年に世界動物園水族館協会 (WAZA) が日本動物園水族館協会 (JAZA) に、太地産のイルカの購入を禁じた時の方が「ザ・コーヴ」よりも日本社会に与えたインパクトは大きかったかもしれない。水族館ファンというそれまで関心のなかった層まで巻き込んでしまったからだ。

 

WAZAの強硬手段の背景にはオーストラリアのイルカ保護団体のアクション・フォー・ドルフィンズ (AFD) (旧名:オーストラリア・フォー・ドルフィンズ) のWAZAに対する訴訟があった。この団体はイルカ漁への圧力のステージを高めるために、2014年にはオバリー氏のサポートで太地町のくじらの博物館を相手取って2つの提訴、昨年は2名の日本人原告とともに和歌山県と知事を相手取って提訴するという法廷闘争を繰り広げている。

 

現時点では、日本での訴訟はAFDにとって1勝2敗という結果に終わっている。くじらの博物館への2つの訴訟のうち1つでは330万円の請求のうち賠償金11万円を獲得したが、もう一つは棄却。和歌山県相手の訴訟は却下されている。

 

しかし、WAZA問題やイルカショーの問題が、水族館のみならず世界的な反動物園キャンペーンの延長線上にあることに気づいている人は少ない。会員施設の動物の扱いの問題で批判を受けているWAZAや、その他の欧米の会員園館が、自己防衛のために太地を切り捨て生贄に差し出した事は想像に難くない。問題は船でイルカを追い込む漁の方法であって、太地産のイルカを飼育していなければ自分達はクリーンだと欧米の水族館やトレーナー協会が主張しているように。

 

世界的な反イルカ飼育運動の先鋒であるオバリー氏のイルカ権利・解放思想は、社会の一切の動物利用を認めない絶対菜食主義のヴィーガン思想と非常に相性がいい。オバリー氏が1980年代に始めた反水族館運動は成長し今や世界的なヴィーガン運動の一部となっている。彼がヴィーガンかどうかは関係なく。近年の水族館や動物園の批判運動の中心となっているのはこういったヴィーガン層である。

 

そうして、水族館や動物園を野生の生き物の生態を知る貴重な施設であることを自然に受け入れ、その命の犠牲に感謝して牛や豚などの肉や魚介類を食べる一般の人々にとって、飼育動物の扱い、種の保全や、環境問題に関する議論であれば理解できる事であり、そこにある程度の社会的コンセンサスを得る事も出来るだろう。しかし極端な思想に基づいた最終目標がその産業全体を滅ぼす事であれば、それは議論ではなく侵略であり、そこに落とし所を見出す事はできない。

 

こういった「ガイアツ」のニュースが日本で報じられる度に、日本のソーシャルメディア上で海外からの圧力に賛同したり好意的なコメントを見る事は本当にない。むしろ多くの人々は、日本や日本の食文化、国内の合法的な漁業や産業に対する度重なる執拗なバッシングや圧力にうんざりしているように見える。

 

「ザ・コーヴ」公開の10年後、太地町では何も変わらず今年も追い込み漁は行われているが、映画関係者やその支持者、活動家たちが期待した未来はそれとは違っていたのかもしれない。

 

 

■岩谷文太
ブロガー。在米15年の後に帰国。多言語のソースを分析するファクトチェックで、「人体の不思議展」と中国の出所不明の人体標本の問題、欧米のフリーチベット運動におけるダイレクトアクション運動、ザ・コーヴ、ポール・ワトソンの保釈破りと逃亡劇など様々な問題を扱う。太地町の反捕鯨・反イルカ漁に詳しい。

 

 

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