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沿岸捕鯨の伝統守る千葉県南房総市 クジラ食普及 継承を後押し

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かつて私たちの食卓には、クジラの肉が当たり前のようにあった。その情景は昭和末期、国際捕鯨委員会(IWC)による商業捕鯨の一時停止で消え去り、市場規模も縮小。令和元年、日本はIWCを脱退して31年ぶりに商業捕鯨を再開したが、昔からの食文化を取り戻す道のりは長い。東京に最も近い沿岸捕鯨の基地がある千葉県南房総市では、捕鯨会社や食堂などが経営の安定化やクジラ食の普及を目指して奮闘している。

 

ツチクジラの解体現場。食材が作られる過程を見学できる=令和3年11月、千葉県南房総市(小野晋史撮影) ©Sankei

 

普通の漁業者に

 

「ミンクは見なかったか」

 

「見なかったですね。ザトウとゴンドウはいましたが」

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昨年11月20日、今季9頭目となるツチクジラが、同市の和田漁港に水揚げされた。この地域では唯一の捕鯨会社「外房(がいぼう)捕鯨」の捕鯨船「第51純友丸」が銚子沖で捕獲。漁港脇の作業場で社員らが解体を始めると、家族連れなどが見学や肉の塊を買うために集まってきた。

 

この日の獲物は全長10・45メートルのオス。分厚い皮の切り口にロープを引っ掛け、機械で巻き上げながら剝がすと「バリバリ」という大きな音が上がる。腹部を解体する際は、水槽を引っくり返したように大量の血が流れ出た。

 

南房総での組織的な捕鯨は17世紀に勝山村(現在の同県鋸南町)で始まり、長い伝統を誇る。外房捕鯨の庄司義則社長(60)は「小さな規模だが、クジラを捕ってきて、ばらして食べると『おいしいね』という世界があることを知ってほしい。何とか続けたい」と意気込む。

 

実はツチクジラは、IWCによる商業捕鯨停止の対象外で脱退前も捕まえてきた。ただ、その需要は南房総地域にとどまる。収益の柱は人気が高いミンククジラなどで、商業捕鯨停止の対象となり、政府主導の調査捕鯨で何とか続けてきた。その枠組みから抜け出す商業捕鯨の再開は、捕鯨会社の独り立ちを意味する。

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庄司さんは「僕らは普通の漁業者になった。食い物を供給する会社として生き残れるかどうか、国の支援も得ながら、やっていくというのが現状です」と話す。

 

クジラ料理店「ぴーまん」の竜田揚げ定食。クジラは高い栄養価と低カロリーで知られる=千葉県南房総市(小野晋史撮影) ©Sankei

 

若者にも好評

 

営利目的である商業捕鯨を盛り上げるためには、より多くの人にクジラを食べてもらいたい。都市部だけでなく地元での需要喚起は欠かせず、南房総市は年2回、市民らを対象に割安な価格でのクジラ肉の配布を実施している。

 

和田漁港近くにあるクジラ料理の名店「ぴーまん」は、竜田揚げや房州名物の「なめろう」をはじめ、豊富なクジラのメニューが自慢だ。

 

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新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いていた昨年12月の週末に訪れると、店内は観光客や地元の人たちでほぼ満席。テークアウトの客も目立ち、クジラ食への関心の高さがうかがえた。

 

「若い人や家族連れなども目立つ。欧米人が食べに来ることもある」と同店の櫟原(いちはら)秋治さん(72)。繰り返し訪れる客が多く、手応えを感じている。妻の八千代さん(72)は少し離れた「道の駅和田浦WA・O!」で食堂を運営し、クジラ料理を出していた昔の学校給食を再現。櫟原さんは「新たなメニューを開発するなどして、もっとお客さんを呼び込みたい」と話す。

 

地域に密着した伝統文化でもある沿岸捕鯨の拠点は、今や全国にも数少ない。継承を後押しするのは、クジラ肉の需要と供給の好循環による市場規模の拡大だ。

 

 

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【南房総の捕鯨】

17世紀に現在の千葉県鋸南町で鯨組を組織した醍醐新兵衛定明が祖とされる。鯨組は明治時代に解散したが、その後も近代的な捕鯨会社が乱立。拠点は銚子や館山などへと移り変わったが、現在は昭和24年に創業した外房捕鯨を残すのみとなった。同社の操業海域は日本近海で、北海道や東北など県外の港に水揚げすることもある。全国的に見ても沿岸捕鯨の拠点は和歌山県太地町や宮城県石巻市など数えるほどしかない。

 

 

【記者の独り言】

JR和田浦駅に着くと、シロナガスクジラの骨格模型が目に入る。周辺には外房捕鯨本社のほか、クジラの街をアピールする道の駅や、展示品が豊富な資料室、クジラ料理の店などがそろい、日本人とクジラの関係について考えさせられる。ツチクジラの解体日時は外房捕鯨がブログで知らせており、作業の迫力と手際の良さは一見の価値ありだ。ここには首都圏で類を見ない地域の個性があり、ぜひ引き継がれて欲しい。

 

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筆者:小野晋史(産経新聞)

 

この記事の英文記事(JAPAN Forward、要約)を読む

Whaling Todayで英文記事の全文を読む

 

 

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