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陸上養殖 人気はサーモン、カワハギも 外資参入、UAEからも

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国内で魚介類を陸上で育てる「陸上養殖」の産業化の動きが本格化し始めている。異業種参入や国内外の専業ベンチャーの登場で、輸入に頼る魚種の国産化や高付加価値化の取り組みが活性化した。ただ、魚介類自給率の回復を目指す政府の取り組みは道半ばで、本格支援の枠組みづくりが急がれる。

 

養殖業は、地域の自然環境を生かしながら成長してきた。マグロやカキ、ノリなどの海面養殖と、ウナギやコイなど湖や河川の淡水で行う内水面養殖があり、水産業の一角を担ってきた。

 

他方、陸上養殖については水産庁にも明確な定義はなく、「内水面養殖とは異なり、陸地の施設で海の魚介類を養殖する」(担当者)との認識だ。令和2年7月策定の養殖業成長産業化総合戦略では、陸上養殖を「技術開発が進展」と分析し、施策策定に向けた調査対象と位置付ける。国内で事業化に取り組む企業数も把握できていないのが現状だ。

 

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陸水の陸上養殖場(白い屋根の建物)=大阪府岬町の淡輪漁港

 

地域活性化が出発点

 

企業参入の先駆者的存在として認知される一社がJR西日本だ。産業振興と地域活性化による沿線振興のための事業の種として、平成25年に陸上養殖にたどり着いた。30年には陸上養殖ブランド「PROFISH(プロフィッシュ) プレミアムオーガニックフィッシュ」を立ち上げ、刺し身など生食可能なマサバなどを取りそろえる。昨年末には8品目目となるカワハギの陸上養殖に着手、地元企業と協働して産地づくりを進める。

 

日建リース工業は昨年12月、静岡市の自社施設で育てたトラウトサーモン「三保サーモン」をお披露目した。駿河湾の海水が染み入る地下海水層があり、深さ30メートルの井戸を掘って活用。稚魚を6~8カ月間で2キロサイズに育てる。「年間20トン程度の生産と量が少なく、単価は高くなってしまう。静岡市や商工会議所、地元の流通や外食と連携し、静岡市来訪の動機になるよう品質維持とブランド化を進める」(日建リース)構えだ。

 

大阪産サーモンが泳ぐ陸上養殖の水槽=大阪府岬町の陸水

 

「サーモン」生産に注力

 

陸上養殖は、水資源への負荷低減の観点から、循環濾過(ろか)で成育用の水を管理する「閉鎖循環式」技術が一般的になっている。水温・水質、餌の管理で魚種特有のアレルギーや寄生虫のリスクを低減、季節変化によって品質が左右されることもない。

 

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陸上養殖の商業化を目指すベンチャー、FRDジャパン(さいたま市岩槻区)は、千葉県の実証施設で年間30トンのトラウトサーモンを生産する。令和4年度中には2000トン規模の施設建設に着手し、商業化への歩みを始めたい考えだ。

 

刺し身やすしネタで人気の輸入魚、アトランティックサーモンの国産化を目指し、大規模生産を目指す外資系ベンチャーもある。ノルウェーの「プロキシマーシーフード」は昨年、静岡県小山町の工業団地で施設建設を開始した。延べ床面積約2万8000平方メートルで生産能力は年6300トン、総投資額は170億円を見込む。今夏には孵化(ふか)場が完成し、5キロサイズに育てて6年夏の初出荷を目指す。日本法人の担当者は進出理由を「日本は生で食べる市場があって政情も安定しているため」と話す。

 

プロキシマーシーフードが静岡県内で建設中のアトランティックサーモンの陸上養殖施設の完成予想図(同社提供)

 

さらに、アラブ首長国連邦(UAE)の企業「ピュアサーモン」の日本法人「ソウルオブジャパン」(東京都港区)は、年間成魚生産量1万トンの養殖施設を建設予定で、加工場も併設して7年秋に出荷する計画だ。エロル・エメド社長は事業形態を「1次産業と2次産業が一体化した形だ」と説明する。

 

東京海上日動火災保険は今年1月、陸上養殖業者向け損害保険の販売を開始。不慮の事故による動産(養殖魚)損害などを補償するもので、すでに複数の見積もり依頼があるという。

 

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一方、水産大手の日本水産は数年来、マサバとバナメイエビの陸上養殖の実証試験を続ける。設備費の初期投資や養殖中の電気代などコストと、事業としての収益性を見定めるため、慎重姿勢を貫いている。

 

FRDジャパンの実証施設では、閉鎖循環式陸上養殖で年間30トンのトラウトサーモンを生産する=千葉県木更津市(同社提供)

 

大規模化へ移行最中

 

日本の食用魚介類の自給率は昭和39年度の113%をピークに減少。令和2年度(概算)は57%と前年度比2ポイント改善するも、生産量も消費量も減少した。

 

水産庁が現在策定中の次期「水産基本計画」では、14年度の食用魚介類の自給率を94%とする目標を掲げる見込み。輸入比率の高いサーモンの国産化の拡大方針や、陸上養殖に届け出制を導入して実態把握を進める構想も盛り込まれそうだ。

 

一方、世界では健康志向とシーフードが関連づいて魚のすり身も引き合いが高まるなど需要増が続く。国連食糧農業機関の統計によれば2018年の世界の漁獲量に占める養殖生産量は46%に達した。海面での過度な大量養殖が海洋汚染や養殖魚の病気などを引き起こすとして、解決策を模索する国も出始めた。

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日本総合研究所創発戦略センターの三輪泰史エクスパートは「陸上養殖は大規模化への移行の真っ最中で、動物性タンパク質供給源のベースとなる産業萌芽(ほうが)の時期に入った」と指摘する。装置産業の一面もある陸上養殖は、参入企業からも「大規模化で大量生産して、初期投資を薄めなければ収益は見込めない」との声もあがる。

 

気候変動影響による漁獲量や魚種の変化、世界的な人口増による需要増を踏まえると、三輪氏は「食料安全保障の観点からも、水産物の安定供給に向けた柱の育成は重要だ。将来投資のため、土地利用の規制緩和や税制優遇、公的資金投入といった枠組みを決め、陸上養殖の産業育成を進めるべきだ」と提言した。

 

筆者:日野稚子(産経新聞)

 

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2022年3月8日付産経新聞【経済#word】を転載しています

 

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