なぜ日本で「無電柱化」進まないのか 東京23区でも8%

 

台風15号がもたらした千葉県の大規模停電は、発生から2週間余りが経過した9月26日も完全解消には至らなかった。強風によって電柱が想像を超えて倒壊したことが停電の主な要因で、専門家は根本的な対策として、電線を地中に通して電柱をなくす「無電柱化」の必要性を訴え、政府も加速させる意向を示す。現状は欧州などの主要都市に比べて大きく立ち遅れている日本。なぜ無電柱化が進まないのだろうか。

 

 

被害2000本

 

大きく傾いた電柱に、力なく垂れ下がった電線、行く手を阻むように道路をふさぐ倒木…。作業員たちが「終わりが見えない」と漏らした今回の復旧作業は難航を極め、被災者らに「電気のない生活」の過酷さを改めて突き付けた。

 

千葉市中央区の飲食店経営の男性(56)は、停電で冷蔵庫や冷凍庫に入れていた食材の廃棄を強いられた。さらに3日で停電が復旧しても周囲で影響が広範囲に残ったため、食材調達に2日も要したという。男性は「被害を防げるならば、電線を地中化してもらいたいね」と漏らした。

 

電柱の被害は、強風によるものや、飛んできたトタン屋根による損傷など多岐にわたる。経済産業省が見積もる今回の被害は計約2000本。台風後、現地を視察した赤羽一嘉国土交通相は「同じことを繰り返さないため、総括として前に進めなければならない」と話し、無電柱化を進める考えを示している。

 

 

背景に戦後復興

 

無電柱化はこれまで国内で遅々として進んでおらず、実現への壁は高い。

 

国交省によると、ロンドンやパリ、香港、シンガポールといった主要都市の無電柱化は軒並み100%。台湾の台北も96%と高水準だが、大阪市は6%で、東京23区でもわずか8%(国内の数値は平成29年度末の国交省調べ)にとどまる。

 

海外では景観などの観点から都市計画で古くから無電柱化を進めてきたが、日本では戦後の復興を急ぐ過程で「安く、早く整備できるとして電柱に電線を張りめぐらせた」(国土技術政策総合研究所)結果だという。

 

そのため、効率的に電力を届けられるようになったが、風雨に直接さらされることから災害の度に脆弱(ぜいじゃく)さが露呈。また、近年は災害が多発する傾向にあり、停電の長期化が目立つようになった。

 

こうした中、平成28年に無電柱化推進法が成立し、国は昨年度から令和2年度までの3年間で1400キロの道路での着工を目標に掲げている。

 

 

高コスト足かせ

 

だが、加速度的な普及は見通せていない。

 

その要因の一つを、日本大生産工学部の秋葉正一教授(土木工学)は「敷設コストの高さがある」と指摘する。

 

国交省によると、地中に管を張りめぐらせ、その中に送電ケーブルを入れる一般的な方式では、1キロ当たり約5.3億円かかる。

 

このうち自治体など道路管理者が負担するのは、電力会社が負担する送電ケーブルなどの施設を除く土木工事費(約3.5億円)。国から半分の支援が得られるものの、自治体は約1.7億円の負担を強いられ、財政状況が厳しい地方を中心に二の足を踏む結果になっている。

 

海外で普及している地中に直接ケーブルを埋める簡略化した工事方式でも1キロ約2.6億円かかるとされるが、電柱の場合、1キロ数千万円で済むとされる。

 

さらに工期の問題がある。無電柱化する際、水道管やガス管を動かしたり、各家庭へ分岐したりする工事などがあり、設計から完成まで約7年かかるという試算もある。

 

一方、無電柱化自体のデメリットを指摘する声も少なくない。電柱だと目視での点検が可能だが、地中設備ではできず、故障の際は地面を掘り起こす作業を強いられるケースが出てくる。こうしたコストや維持費が電気料金などに跳ね返る可能性もぬぐえないのだ。

 

それでも秋葉教授はこう強調する。「命を守ることを最優先にすれば、無電柱化は必要。国は負担を伴うものであることの国民の理解を促進させ、一日も早く国際社会と肩を並べる状況にすべきだ」

 

 

9月27日に産経新聞に掲載された記事を転載しています

 

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