対露交渉「2島戦術」破綻は鮮明だ

 

 

危惧された通り、ロシアとの北方領土交渉が難航している。安倍晋三首相は昨年11月、プーチン露大統領との間で、日ソ共同宣言(1956年)に基づいて交渉を加速させることに合意した。同宣言が「平和条約締結後に引き渡す」としている色丹島と歯舞群島の返還へ向け協議が進むかと思われたが、ロシアは「ゼロ回答」を突きつけている。

 

ロシアのガルージン駐日大使は、3月28日の記者会見で日本側の「2島戦術」を一蹴した。大使は、北方領土が「第2次大戦の結果としてロシア領になった」と認めるよう改めて要求。日米安全保障条約に絡む「ロシアの懸念」を解消することや、日露関係が全般的に発展することも交渉進展の条件に挙げた。

 

 

首相の足元を見たロシア

 

つまるところ、領土問題は存在せず、2島ですら返還してほしければ日米安保条約を見直せ-と言っているに等しい。同様の主張は昨年11月以降、プーチン氏やラブロフ露外相からも繰り返されている。日本側がだんまりを決め込む一方、ロシア側は暴論を吐き放題だ。

 

こうした状況に至ったのは、首相が北方四島の返還を求める原則から離れ、ロシアに迎合したからである。

 

両国間には、「四島の帰属」を「法と正義の原則」で解決するとした東京宣言(1993年)をはじめ、いくつもの合意文書がある。それにもかかわらず、首相は過去に積み上げられた交渉や合意を軽視し、日ソ共同宣言に立ち返ると表明した。ロシアは足元を見て、いっそう強硬な姿勢を取っているのである。

 

共同宣言に依拠する戦術は、鈴木宗男元衆院議員の考えを反映しているとみられる。鈴木氏は第2次安倍政権の発足後、毎月定期的に官邸を訪れ、対露外交で首相の相談役を務めてきた。2000年代初頭に2島先行返還(同時並行協議=歯舞群島、色丹島の引き渡しと国後島、択捉島の帰属問題を並行して交渉する方式)の線で動いた鈴木氏には、今も自説への思い入れが強いのだろう。

 

 

「四島返還」へ長期戦略を

 

しかし、当時とはプーチン政権の置かれた状況も国際情勢も異なる。ロシアは2014年にクリミア併合を強行し、欧米から制裁を科されて孤立した。友好国である中国は、米国と「新冷戦」と呼ばれる状態にある。国内ではプーチン氏の支持率が低下傾向で、政権基盤は盤石でない。

 

首相は「プーチン氏と平和条約を締結する」と意気込んできたが、期限を区切れば不利な状況を招くだけである。四島返還を求める原則に戻り、「ポスト・プーチン」をもにらんで長期的な戦略を練ってほしい。

 

日本政府は、交渉相手を刺激したくないとの思いから、ロシアに対する反論を控えている。だが、ロシアにそうした「配慮」が通じないのは明らかだ。国民に対する説明責任を果たすのはもちろんのこと、ロシアの不当性を広く国際社会に向けて訴えることが問題解決の道である。

 

筆者:遠藤良介(産経新聞論説委員・前モスクワ支局長)

 

※国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第583回(2019年4月1日付)を転載しています。

 

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Author:

Ryosuke Endou is an editorial writer and a former Moscow bureau chief of The Sankei Shimbun newspaper.

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