日本はゴーンという難題を抱えた

 

 

犯罪史上に名を刻む悪党である。1963年に英国内で郵便列車が襲撃され、現在の貨幣価値で50億円以上の現金が奪われた。犯人の一人、ロナルド・ビッグズは34歳だった。

 

ほどなく逮捕され、懲役30年の刑に処せられた。もっともわずか1年後には、刑務所からの脱獄に成功する。パリで整形手術を受け、偽の旅券で各国を渡り歩き、ブラジルにたどり着く。英国警察に居所を突き止められても、本国送還は免れた。当時英国とブラジルとの間に「犯罪人引き渡し条約」が結ばれていなかったからだ。

 

事件は映画にもなり、ビッグズは有名人気取りで、優雅な生活を送った。特別背任などの罪で起訴されている日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告(65)の中東レバノンへの逃亡劇も、まるで映画の1シーンのようだ。

 

現地のテレビ局によれば、保釈中だったゴーン被告は、楽器の収納ケースに隠れ、プライベートジェットで密出国を果たした。最強と評判の弁護団を抱えながらも、裁判では勝ち目はないと踏んだのか。

 

いずれにしても、巨大企業のトップにまで上り詰めた人物とはとても思えない。日本の司法制度を踏みにじる、卑劣な所業である。ゴーン被告の引き渡しを求めても、逃亡先のレバノン政府が応じる可能性は小さい。だから、いわんこっちゃない。逃亡の恐れを理由に保釈に強く反対してきた、検察側の歯ぎしりが聞こえてくるようだ。

 

晩年のビッグズは、望郷の念にかられて帰国する。8年間の服役生活を送った後介護施設で暮らし、84歳で世を去った。ゴーン被告は自分の意思で戻ってくることはあるまい。それどころか自己弁護のために、日本の悪口を言いふらすだろう。難題をまたひとつ抱え込んでしまった。

 

 

1月3日付産経新聞【産経抄】を転載しています

 

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