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デジタルシフトで生き残る出版大手 高まる日本アニメ人気が追い風に

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長く出版不況といわれてきたが、大手出版社の業績が好調だ。新型コロナウイルス禍の中での巣ごもり需要を背景に、電子書籍や海外市場が急成長。コミックやライトノベルといった、デジタルと親和性の高いコンテンツを抱える出版社では、以前から取り組んできたデジタルシフトが実を結びつつあるようだ。

 

KADOKAWAが5月に発表した令和4年3月期連結決算は、売上高が前期比5・4%増の2212億円、営業利益が35・9%増の185億円と、いずれも過去最高を記録した。人気シリーズのコミックスやライトノベル、児童書のほか、海外での紙の出版物も好調だった。運営する電子書籍サイト「ブックウォーカー」は国内だけでなく、台湾や英語圏で課金利用者が増え、ゲーム事業のヒットもあった。

 

小学館は2月期決算で、売上高が前期比12・1%増の1057億円。同社広報室によると、デジタル収入は前期比25・2%増の382億円で過去最高に。9割を電子コミックが占めた。

 

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講談社が2月に発表した、3年11月期決算では、売上高は前期比17・8%増の1707億円。同社広報室は、電子書籍単体の売り上げが初めて紙の出版物を上回ったとしている。

 

Japanese publishers

KADOKAWAの電子書店「ブックウォーカー」の英語サイト。海外の課金会員も増えているという

 

アプリで課金も

 

大手出版社の追い風となったのがコミックの売り上げ増だ。講談社広報室は「電子書籍では、コミック作品が大ヒット作だけでなく、まんべんなく売れた」といい、コミックアプリ「マガジンポケット」の成長も増収に結びついたという。出版科学研究所によると、3年のコミック市場(推定販売金額)は、紙と電子を合わせて、前年比10・3%増の6759億円となり、2年連続過去最高を更新した。

 

KADOKAWAの電子書店「ブックウォーカー」の英語サイト。海外の課金会員も増えているという

 

専修大学の植村八潮教授(出版学)は、電子書籍市場の拡大について、コミックではコロナ禍の巣ごもりで、消費者がサブスクリプションサービスに慣れ、コミックアプリに課金するようになったほか、「縦スクロールコミック」のヒットで新たな読者が生まれたことが大きいという。「紙の本と違い、漫画アプリは自社で顧客管理ができ、戦略も練れる。大手出版社が、2010年ごろから(デジタル技術を活用する)DXに取り組んできたことがうまくシフトチェンジにつながった」と話す。

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海外市場に期待

 

今後は海外展開も加速するとみられる。エンタメ社会学者の中山淳雄さんは「コロナ禍で欧州や北米ではアニメ配信が盛んになり、日本アニメの人気が高まった。その結果、グッズが商品化され、原作となるライトノベルやコミックも売れた」と指摘する。

 

最近のヒットのキーワードは、「映像化しやすいこと」だという。「日本のコミックやライトノベルは映像と相性が良い。海外のアニメやコミックは半分以上が子供向けだが、日本は世界的に見ても作品数が圧倒的に多く、対象読者の幅も広い。デジタルでもっと海外展開していけば、市場規模は今の数倍まで広がるのではないか」とみている。

 

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デジタル戦略最前線を聞く

 

デジタル技術の活用は出版社をどう変えるのか。KADOKAWAの経営企画グループ担当執行役員で、DX戦略アーキテクト局長の安本洋一さんに聞いた。

 

-DXに取り組んだのはいつからか

 

「平成22年に、ブックウォーカーをスタートさせました。プラットフォーマーという立ち位置でいくことで、ユーザーとダイレクトにつながって購買行動分析ができると考えました」

 

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-ブックウォーカーが成功した理由は

 

「アーカイブも含め作品数を増やしてユーザーの選択肢を広げることを重視しました。電子書籍は、再販制度が適用されないので自分たちで価格を設定できる。1巻2巻を無料にして、3巻以降を買ってもらうというようなキャンペーンはよくやりました」

 

-海外で売れているジャンルは?

 

「台湾でも北米でもライトノベルが非常に売れています。最近ではコロナ禍によって海外のアニメプラットフォームが伸びた。今、海外の書店では日本の漫画コーナーが非常に拡大しています。今まではどっちかというと、ニッチな存在だったのが、日本のコンテンツの価値が高まっていることを感じています」

 

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-DXによってコンテンツの作り方で変わった部分はあるのか

 

「クリエイトの部分はこれからだと考えています。我々が持っているデータを解析して、クリエイターに還元していきたい。たとえば、今、こういう言葉でバズっている人がいるから、本を書きませんか、というアプローチをするなど、ユーザーの行動を可視化して作品作りに持っていってもいい」

 

-デジタルの可能性は?

 

「物理的な制約がなくなったことで、よりグローバルが近くなりました。(KADOKAWAは)IP(知的財産)を創出する企業でありながら、プラットフォーマーでもある。この10年ほどの間にたまった知見もあるし、チャレンジもできる。たとえば、紙の書籍と電子書籍の買い回りキャンペーンを行ったところ、読者との新しい接点ができつつある」

 

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-海外の課金利用者も増えているが、今後の課題は

 

「この春から、社内の総合翻訳管理センターが稼働しています。今までは海外の版元にお願いして翻訳していましたが、自社でもスピード感を出してやっていく。日本で出版されたコミックをなるべく早く海外で配信したい」

 

筆者:油原聡子(産経新聞)

 

 

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2022年7月2日付産経新聞【学芸万華鏡】を転載しています

 

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