Sushi Chef Training Course 002

Rio Goto (right) makes sushi in front of customers for the first time. Masao Sagawa is the owner of Sushi Sagawa in Minato Ward, Tokyo. (© Sankei by Akiko Shigematsu)

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先日のWBC(ワールドベースボールクラシック)でも、海外選手が東京ですしを堪能するSNSが話題になったが、今、世界中ですし人気が沸騰している。職人の引き抜き合戦が展開されるなか、「飯炊き3年、握り8年」といわれる修業を数カ月で速成する、すし学校に注目が集まっている。既存校に加え、すし店経営者が開校するケースも出てきた。日本人というだけで絶対有利な「稼げる職業」。円安と低成長の日本から世界へという野心も、熱をあおっている。

 

 

徒弟制度に一石「いらない苦労はしないで」

 

「投資家がすし職人をスカウトして店を立ち上げるという現象が、世界中で起きている」。東京すしアカデミーの担当者が指摘した。流通の進化で東京・豊洲市場などと同等の一流のネタが海外でも手に入るようになり、欧米をはじめタイやベトナムなどの大都市部にも高級すし店が続々開店。「日本人職人の需要が非常に高まっています」

 

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初めて人前ですしを提供する後藤理央さん(右)。作業を見守る大将の佐川雅温さん=東京都港区の「鮨 佐がわ」(重松明子撮影)

 

2カ月間で修業3年目程度の技術を習得できるという同校は21年前、すし店の経営コンサルタントをしていた福江誠社長(55)が、徒弟制度に一石を投じて開いた初のすし職人養成学校である。4千人以上の卒業生が国内外で働いているが、昨秋から入学希望者が急増。今年度は300人超を送り出す見込みだ。

 

学費は2カ月間の江戸前すし集中特訓コースで入学金16万5千円+受講料71万5千円。生徒の男女比は7対3。元会社員や飲食店関係者など多様だが、日本人の8割は職人として海外移住を希望しているという。

 

 

「自分はお客さんの前で握るまで7年かかりました。指導役の先輩に殴られたときは、痛みだけで理解できなかった。これからすし職人を目指す人たちには、いらない苦労をしてほしくない」。東京・六本木の会員制高級店「鮨(すし) 佐がわ」の大将、佐川雅温さん(39)が、かつての修業時代を語った。

 

同店を共同経営する菊地英晃さん(53)は今春、平日のオンラインと、定休日を利用した店での実地学習を組み合わせた学校「日本寿司(すし)リーディングアカデミー」を開いた。佐川さんも講師を務めている。

 

設立の背景にはやはり、世界的なすし職人不足がある。農林水産省の推計によると海外の和食レストラン数は一昨年時点で約16万店。15年で6倍以上に増えた。「すし職人は日本人というだけで優遇され、海外から数千万円単位の高給で引き抜かれることもざら。店を閉めざるを得なくなるなど、日本の経営者たちは困っている」と菊地さん。

 

講習は3カ月間。週に2回、実習用の魚が自宅に届き、高性能カメラを駆使した映像の指導に沿って、おろし方から仕込み、握り、熟成方法などを学ぶ。

 

豊洲の仲卸が目利きのポイントを伝授したり、骨董(こっとう)に造詣が深い白洲信哉氏が器の講師を務めるなど、多角的に学べる内容という。50~65万円相当の魚代込み、800ページに及ぶテキスト付きで学費は88万円。「今の仕事を辞めずに自分の都合の良い時間に効率的に学べる。この仕組みで職人・後継者不足、不衛生で間違ったすし文化の蔓延(まんえん)などの問題を解決したい」

 

 

「仮想個別指導メソッド」と名付けられたこのカリキュラムをもとに、約2カ月間握りを練習した元パティシエで見習いの後藤理央さん(26)が、初めて人前で握るという場面を、取材させてもらった。大将の佐川さんと同じ素材を扱い、食べ比べることで学習の成果を測るという。

 

後藤理央さんの赤身の握り(右)と、大将の佐川雅温さんの握り。違いは歴然!?=東京都港区の「鮨 佐がわ」(重松明子撮影)

 

最初に出された後藤さんの赤身は、見た目も普通でなかなかの出来だ。しかし、佐川さんの赤身が並ぶとツヤ感の美しさ、口に入れたときのまろやかさがまるで違った。「店に出てからが本当の学び」と佐川さん。後藤さんは「素手で直接お客さんに提供する、そんな料理はすしだけ。日本独自の料理を極めてみたい」と夢を語った。

 

海外から引く手あまたの食文化。すしという資産を日本の成長につなげなければ、もったいない。

 

筆者:重松明子(産経新聞)

 

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