Japanese Stationery 001

Pentel's gel-ink ballpoint pen EnerGel. (Courtesy of Pentel)

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日本製文具の人気が海外で高まっている。ペーパーレス化や少子高齢化で長期的な国内市場は縮小が避けられない見通しだが、海外ではボールペンなどの筆記具を中心に、上質な日本製文具の支持が高く、アート制作用やギフト向けも強い。円安も追い風となっている。成長余力の大きい海外市場を広げようと大手各社が注力しており、観光市場の回復に合わせてインバウンド(訪日客)のおみやげ需要を取り込む動きも増えている。

 

 

日本の教育事情が影響

 

「以前は欧米などに文具のメーカーがあったが、安い中国製が広まるなどして廃業し、残った企業もほとんど開発をやめている。こうした中で淘汰(とうた)されずに新製品を出し続けていることが、国内メーカーの特徴といえる」

 

日本筆記具工業会(東京都台東区)の吉田栄専務理事はこう語る。「文具輸出の伸びが背景の一つにある」という。

 

国内の文具市場が縮小傾向にある一方、同工業会が貿易統計を基に集計した筆記具輸出額は令和4年に約1282億円となり、平成29年比で約2割増となっている。

 

日本製文具が海外で人気を呼ぶ理由は、その品質の高さだ。

 

アルファベットだけの欧米に対し、日本では画数の多い漢字に加えてひらがな、カタカナと多様な文字を書く習慣がある。にじまず、滑らかな書き心地へのこだわりは筆記具だけでなく、ノートにも求められ、それが独自の進化を遂げた日本製文具の強みとなっている。

 

海外では文具を支給したり、教室で貸し出したりする学校も多く、「私だけのお気に入りを使う」といった意識は芽生えづらい。日本では入学時などに一式そろえ、自分の名前を入れるのが一般的だ。このため外国製に比べて日本製のデザイン性が高いのは、日本の教育事情なども影響したと考えられている。

 

 

色鮮やかで高い速乾性

 

海外で注目を集めるのは、例えば鮮やかな発色やさまざまな素材に書けるのが魅力の水性サインペン「POSCA(ポスカ)」だ。手がける三菱鉛筆の広報担当者は「アート(美術)・クラフト(工芸)市場で需要が伸びている」と話す。同社ではポスカ以外にも北米で水性ボールペンなどの支持も厚い。

 

同社の売上高に占める海外の割合は年々拡大している。円安の影響もあり、令和5年12月期の売上高748億円のうち、海外は395億円と前期比2・6ポイント上昇の53・5%を占め、海外比率は過去最大となった。

 

一方、同社は老舗文具メーカー大手の独ラミー社(ハイデルベルク)を今年3月に完全子会社化した。欧州中心に海外市場の拡大を狙い、ラミー社が主力とする万年筆の技術を取り込む。

 

「ポスカ」を使い、サーフボードにクジラを描いたアート。木材や金属、布など素材を問わず、鮮やかな色を表現できる(三菱鉛筆提供)

 

約70年に及ぶ海外展開の歴史を有するぺんてる(東京都中央区)も欧米などで20の販売会社と5工場を拠点に事業を展開。「日本ではクレヨンや絵の具の印象が強い当社だが、海外の販売実績ではボールペンやマーカー、シャープペンの占める割合が高い」(広報担当者)という。

 

同社の海外売上高比率は令和4年度で約7割。今後さらに伸びるとみており、「新興国地域である中国、インド、中南米などの成長を促進していく」と意気込む。

 

ぺんてるにおける海外での稼ぎ頭は、何といってもボールペン「エナージェル」だ。平成13年に発売し、世界120以上の国・地域で展開。年々販売を伸ばしており、全世界累計販売本数は令和5年9月時点で12億本を超えた。

 

「エナージェル」はペン先からインキが吐き出されると同時に、ゲル状からすばやく液体に変わる「ゲルインキ」を採用し、滑らかで鮮やかな書き味を実現している。

 

インキの速乾性も海外で爆発的な人気を集めた大きな要因だ。欧州などで国によっては日本より左利きの人口の割合が高く、左から右へ書いてもすぐに乾くためインキで袖口や書類が汚れないことが受けているという。

 

パイロットコーポレーション「フリクションボール3 メタル」と「同 ウッド」(同社提供)

 

パイロットコーポレーションも、書いた字をこすると消える特殊なインキを用いたボールペンなどの「フリクション」シリーズが世界的なヒット商品に。令和5年末時点で累計44億本を販売している。米国ではゲルインキボールペン「G―2(ジーツー)」の販売を伸ばしている。

 

 

海外では目新しいバインダー

 

一方、コクヨは海外売上高比率が5年12月期で14・4%と比較的低いが、インドや中国などで注力しており、文具事業に占める割合は35・3%で増加傾向にある。

 

コクヨが中国のアパレルブランド「TYAKASHA(タカシャ)」とコラボしたバインダー(同社提供)

 

「中国では女子高生らの間でバインダーノートとルーズリーフがブレーク中」(担当者)で、中国における昨年のバインダー販売額は2018年の3・1倍に伸びた。日本では目新しくないバインダーだが、海外では市場がないに等しく、タイやマレーシアで昨年初出店した期間限定ショップでも人気を集めたという。

 

書き心地の良さやデザイン性に加え、自分のスタイルに合わせてノートのけい線や量を変えるなどカスタマイズすることができ、「中国では現地メーカーと差別化した地位を確立できている」と手応えを示す。

 

またコクヨは昨年1月、羽田空港直結の複合施設内に、急増する訪日客を取り込むための文具直営店も開業した。「キャンパスノート」など好きな文具を詰め合わせたギフトセットなどがよく売れるといい、動画や写真、音楽を楽しみながら文具を買えるIoT(モノのインターネット)自動販売機も設けている。オープンから1年間で25カ国・地域から約3万人が来店。「日本の文具の魅力を体感いただいている」と話す。

 

筆者:田村慶子(産経新聞)

 

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