Jeffrey Hornung 3

 

菅義偉新首相はこれまで外交政策に強い関心を示したことがなく、安倍前政権が進めた「自由で開かれたインド太平洋」構想などの政策路線を変更していくとは考えにくい。当面は自身の(政治的)立場を固め、新型コロナウイルスや経済対策などの国内政策に集中するだろう。

 

その上で知りたいのは、菅氏が日本の将来にどのような展望を抱いているのか、日本が(国際社会で)どのような役割を果たしたいのか、どのような近隣諸国との関係を求めていくのかだ。「外交は安倍(前)首相に相談する」といった発言は、自らの外交構想に自信がないように映る。

 

2カ月後の米大統領選で誰が当選するにせよ、菅氏にとって大切なのは日米の同盟関係で「想定外」の事態を引き起こさないことだ。(民主党政権時代に)鳩山由紀夫元首相が米軍普天間基地移設問題で混乱を招いたように、過去約20年間の日米間の摩擦は「想定外」が原因だ。

 

イージス・アショアの配備停止問題や近く本格化する在日米軍の駐留経費負担をめぐる協議など、日米間に課題は多い。その中で菅氏が最も集中すべきなのは「同盟の管理」で、それには「予測可能性」が必須となる。

 

ワシントンでは現在、「日本は非常に重要な同盟国だが、(負担の共有で)さらなる取り組みをすべきだ」との認識が超党派で共有されている。

 

仮に民主党のバイデン前副大統領が当選しても、米国は日本に駐留経費の負担増を要求してくるだろう。ただ、その金額や手法はトランプ氏と異なり、過去の歴代政権と同様に協議の形式をとり、単に金額に注目するよりも(同盟強化に向けた)日本の取り組みや役割を重視するようになる。

 

トランプ氏との付き合い方に関する菅氏へのアドバイスは「辛抱強く、ずぶとくあれ」ということだ。

 

トランプ氏が菅氏を面前で批判し、日本を批判したとしても日米同盟の終焉(しゅうえん)を意味するわけではない。トランプ氏は時にその手の発言をして人々に不意打ちをかける。菅氏も安倍氏から「トランプ氏の批判に過剰反応するな」と助言を受けているはずだ。

 

日米関係史を振り返ると、歴代両首脳の関係が連続して良好だったことはない。その意味でトランプ氏と菅氏がうまくいかない恐れは十分ある。

 

聞き手:黒瀬悦成(産経新聞ワシントン支局長)

 

 

【プロフィル】ジェフリー・ホーナン
米ジョージ・ワシントン大で博士号(政治学)を取得後、国防総省の研究機関「アジア太平洋安全保障研究センター」准教授、笹川平和財団米国の研究員などを経て現職。専門は日本の安全保障と外交政策、東アジアの安全保障問題など。

 

 

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