~~
岸田文雄政権が、いわゆる徴用工訴訟問題について、韓国政府が正式発表した「解決策」を受け入れた。
韓国の不当な振る舞いを糊塗(こと)する「解決策」への迎合で、日韓関係の本当の正常化につながらない。極めて残念だ。
「解決策」の柱は韓国最高裁が日本企業に命じた賠償支払いを韓国政府傘下の財団が「肩代わり」することだ。
元徴用工関係者に金銭を支払うのは韓国政府の勝手だが、そもそも日本企業には「賠償金」を支払ういわれがない。「国民徴用令」という法令に基づき、賃金を支払っていた。第二次大戦当時、多くの国で行われていた勤労動員にすぎない。さらに、日韓間の賠償問題は昭和40年の日韓請求権協定で「個人補償を含め、完全かつ最終的に解決」している。
岸田政権は、日本企業は史実と国際法を無視した韓国司法に言いがかりをつけられた被害者で「肩代わり」という表現も見当違いだともっと説明すべきだ。それも十分行わず、韓国側財団が肩代わりする点を評価するようでは、日本の勤労動員が違法で非人道的だったという印象を広めてしまう。
にもかかわらず、岸田首相は朝鮮統治をめぐって日本側が「痛切な反省と心からのおわび」に言及した平成10年の日韓共同宣言に触れ、「歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる」と表明した。
日本が被害者である「徴用工」問題で、首相や外相がすべき発言ではない。政権が交代したり、何か問題が起きたりするたびに、関係もないのに謝罪の表明を繰り返す前例になることを恐れる。
岸田首相は、韓国政府の解決策を評価し、「日韓関係を発展させていきたい」と述べた。だが、対等な主権国家の関係を構築できるとは思えない。韓国が史実を歪(ゆが)めて糾弾し、日本が頭を下げる不健全な関係が続きかねない。岸田首相は今後、過去のおわびや反省の文言を読み上げるなどの対応を避けなくてはならない。
日韓の経済団体が若者の交流拡大の共同基金をつくる案が持ち上がった。「徴用工」問題と無関係だというが、そうは受け取れない。基金拠出は望ましくない。
対日関係改善を追求する尹錫悦政権の姿勢は分かるが、岸田政権が「徴用工」問題で迎合するのは本末転倒である。
◇
2023年3月7日付産経新聞【主張】を転載しています