全国の小中高校などで把握された、いじめが文部科学省の調査で過去最多を更新した。
インターネット上の誹謗(ひぼう)中傷といった、いじめの増加が顕著だ。陰に隠れエスカレートしやすく、自殺などにつながる深刻な事態も起きている。親や教師は認識を新たに、厳しく指導と対策にあたるべきだ。
調査による、いじめの認知件数は令和元年度で61万件を超えた。前年度から7万件近い増加だ。
心身に大きな被害を受けるなどの「重大事態」も前年度から100件以上増え、700件を超えた。深刻である。
平成25年にいじめ防止対策推進法が施行され、被害者の立場でいじめを広く捉えるようになった。だが対策は伴っているか、見過ごされているものはないか。
とくに気がかりなのは、いわゆる「ネットいじめ」が1万8千件近く、増加が目立つことだ。26年度と比べ、この5年で2倍以上になっている。
スマートフォンなどを使った書き込みは、学校側は見えにくく、把握が難しい。統計数字は「氷山の一角」とみるべきだ。
誹謗中傷が痛ましい事件につながるケースは後を絶たない。28年にはSNS(会員制交流サイト)に根拠ない噂を投稿されるなどした中学2年の女子生徒が自殺している。
ネット上の書き込みは、匿名でできることから、安易に行われ、過激化しやすい。
だがけっして許されるものではない。匿名性に対し、プロバイダ責任制限法という法律で、発信者情報を開示する仕組みもつくられている。同法に基づき、ネット上で激しい中傷を受けた女性が投稿者を特定し、警察が侮辱容疑で書類送検した事案もある。損害賠償請求なども行われている。
いじめ防止対策推進法でネット上の中傷はいじめと定義されている。卑怯(ひきょう)な違法行為は罰せられると、はっきり教えるべきだ。
新型コロナウイルス感染拡大の中で、医療関係者の子供らへのいわれない差別や中傷なども問題となっている。
いじめはどこにでもある。些細(ささい)なきっかけで悪意が誰かに向かう可能性がある。親は家庭で他人の悪口を言っていないか。心の中に「鬼」を棲(す)まわせない、断固たる意志を社会で共有したい。
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2020年10月29日付産経新聞【主張】を転載しています