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イラン大統領選で、国際協調を重視する改革派のペゼシュキアン元保健相が、保守強硬派の候補を破って勝利した。対外融和を掲げる大統領は、ロウハニ師以来3年ぶりだ。体制に強い不満を持ち、変化を求めた民意の表れといえる。
新政権の課題は山積している。2015年に欧米などと結んだ「核合意」の再建や、疲弊した経済、自由が制限された社会の改革などである。
これらが、ペゼシュキアン氏の下で解決に向けて速やかに進むとみるとすれば、楽観的すぎる。国政全般の決定権は、最高指導者のハメネイ師が握っている。大統領は行政府の長にすぎず、国会も保守強硬派が7割を占めている。
ただし、当初は有力候補とみなされなかったペゼシュキアン氏を選んだのはイラン国民だ。ハメネイ師ら指導部は、この事実を真摯(しんし)に受け止め、ペゼシュキアン氏の改革路線を阻むべきではない。
今回の大統領選は、欧米と対立していた保守強硬派のライシ前大統領が5月にヘリコプター事故で急死したことを受けて行われた。
選挙戦でペゼシュキアン氏は、高い失業率やインフレを改善するためには「核合意」を立て直し、欧米に制裁を解除させることが必要だと主張した。
合意の柱は、イランが核開発を制限する見返りに制裁を解除することだ。18年にトランプ政権下の米国が、合意内容は不十分だとして離脱し、機能不全となった。反発したライシ政権は、核兵器級の90%に近づく60%に濃縮したウランを保有するなど核開発を進めた。
バイデン米政権は核合意再建の意向はないとしている。11月の大統領選を控え、対抗馬のトランプ前大統領にリードを許す中、安易な妥協はできないからだ。イランは核開発を抑制し、国際原子力機関(IAEA)に協力するなど具体的な行動を示す必要がある。
イランは、イスラム原理主義組織ハマスやレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラを支援し、ウクライナ侵略を続けるロシアに無人機を供給している。これら国際秩序を乱す行為もやめるべきである。
日本はイランと友好関係にある。米イラン双方に対話を促す外交努力が求められる。
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2024年7月10日付産経新聞【主張】を転載しています