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米空軍の戦闘機が米東海岸南部沖の領空で中国のスパイ気球(偵察気球)を撃墜した。
オースティン米国防長官は、米本土の戦略拠点を監視する目的で中国が運用していた気球だと説明し、民間の気象研究用の気球が誤って飛来したという中国の主張を否定した。米国は気球の残骸を回収し、中国の偵察活動について詳しく分析する方針だ。
中国外務省は撃墜を「過度な反応」とし、「強烈な不満と抗議」を表明した。だが、同意なしに他国領空に侵入して偵察するのはスパイ行為であり、明白な主権侵害でもある。米国は撃墜に先立ち中国に抗議し、ブリンケン国務長官の訪中をとりやめた。中国は謝罪すべきで反発する資格などないと知るべきだ。米国による抗議と撃墜は安全保障上、当然の行為といえる。
同様の気球は中米コスタリカ、南米コロンビアでも確認された。台湾大手テレビの報道によれば、一昨年と昨年の少なくとも3回、台湾にも飛来していたという。
今回の気球の航跡は判明している。重くみるべきは、米軍の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射施設が広範囲に存在する西部モンタナ州上空を通過した点だ。米軍の中核的核戦力の配備の在り方を探っていた可能性がある。核戦力を急速に増強している中国が、西太平洋地域の覇権にとどまらず、ICBM戦力で米国と対峙する目標を追求しているなら事態は深刻である。日本を守る核抑止態勢の充実が一層重要になる。
スパイ気球は外交上の対米融和よりも核戦力増強を重視する中国の本音を示したともいえる。
磯崎仁彦官房副長官は記者会見で、今回の気球に似た「飛行物体」が令和2年6月と3年9月に日本上空で目撃されたと認め、米国の事案との関連性を分析中だと語った。当時の自衛隊の対応については「手の内を明らかにする恐れ」を理由に答えを控えた。
自衛隊が外国のスパイ気球の領空通過を把握できなかったり、傍観したりするのであれば問題だ。政府と自衛隊は、スパイ気球やドローン(無人機)に対処する能力と意思をきちんと備えているのか。台湾は昨年9月、中国から飛来したドローンを撃墜した。日本も必要があれば自衛のため、胡乱(うろん)な気球やドローンを撃ち落としたり、捕獲したりすべきである。
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2023年2月8日付産経新聞【主張】を転載しています