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中国政府は、日本人と韓国人を対象に渡航ビザ(査証)発給手続きを停止した。相互主義に基づく国際慣行を大きく逸脱した措置であり、即時の撤回を求める。
日本政府は、中国での新型コロナウイルス感染急拡大を受けて入国時の陽性者隔離など水際対策を強化した。これに対し中国は「各国の防疫措置は科学的で適度であるべきだ」(毛寧報道官)と強く反発し、ビザ発給手続きの停止に踏み切った。
中国側は「完全に正当で合理的だ」としているが、中国へのビザなし渡航が認められていない現状での発給停止は事実上の入国禁止措置であり、常軌を逸している。しかも同様の防疫措置をとっている欧州各国などには発給停止を実施せず、日韓両国のみを狙い撃ちにしたのは、極めて政治的かつ非合理で、容認できない。
日本や韓国などが水際対策を強化したのは、中国での感染拡大だけが理由ではない。
感染拡大は病原性の高い変異株出現の可能性を高めるため、対策としてウイルスの遺伝子解析など正確なデータ収集が不可欠なのだが、中国は感染者や死者数でさえ過少に発表するなど各国に不信感が強まっているからだ。
中国に再三、正確なデータ提供を求めてきた世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長も「包括的な情報がない中、各国の対応は理解できる」と表明している。
しかし中国は9日以降、過少ながらも発表していた感染者や死者数のデータ更新すらしていない。情報公開どころか情報隠蔽(いんぺい)に走っているようにみえる。
日本政府は「極めて遺憾だ」(岸田文雄首相)と遺憾の意を表明しているが、生ぬるい。
政府は中国がビザ発給停止を撤回するよう強く申し入れるとともに、聞き入れられなければ、厳しい対抗措置を断行すべきだろう。相互主義の観点からすれば、中国人へのビザ発給停止も当然、選択肢のひとつである。
経済界も中国がとった今回の措置を一過性のものと見誤ってはならない。「ゼロコロナ」政策が破綻したように、政治的メンツが経済合理性に優先する習近平体制下での「中国リスク」は、今後ますます増大する。危機は、いつどこで起きるかわからない。中国頼みのサプライチェーンから一刻も早く抜け出すときである。
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2023年1月13日付産経新聞【主張】を転載しています