~~
先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)が閉幕した。
ロシアはウクライナ侵略を続けている。中国は南・東シナ海などで力による現状変更を試みている。中露、北朝鮮の核の脅威は高まっている。厳しい国際情勢に対処していくため、G7の結束が今ほど求められるときはない。
G7首脳声明は、ロシアに抗戦するウクライナに対し、必要とされる限りの支援を約束した。世界のいかなる場所でも力による現状変更に強く反対するとした。グローバルサウスと呼ばれる新興・途上国との連携を重視し、「大小を問わず全ての国」の利益のため、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持するとした。
台湾海峡の平和求めた
核軍縮に関する広島ビジョンもまとめられ、ロシアの核威嚇と核使用に反対し、中国の核戦力増強に懸念を表明した。
いずれも世界の平和と秩序の維持に責任を持つべきG7として必要な表明で結束を示した。今後、ウクライナ支援の強化などを通じ、結束の固さを証明していくべきだ。それにはG7議長国の日本も殺傷力を持つ兵器の提供を実現するときである。
ウクライナのゼレンスキー大統領は急遽(きゅうきょ)来日し、サミットに対面出席した。グローバルサウスの代表格で、ロシアに融和的なインドのモディ首相と会談するなど、積極的に外交を展開した。
ロシアの侵略が成功すれば、法の支配に基づく国際秩序は瓦解(がかい)する。それはグローバルサウスの国々にとって最悪の事態になるとG7も粘り強く説き、ロシア包囲網への同調を募っていくべきだ。
G7の首脳声明は「国際社会の安全と繁栄に不可欠」として、台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認した。中国国内の人権問題への懸念を示した。いずれも妥当である。
首脳声明に「中国との建設的かつ安定的な関係」の構築や、気候変動など地球規模の課題での中国との協力を記したのも特徴だ。中国政府は首脳声明の台湾問題への言及に反発したが間違っている。台湾への武力行使の選択肢を放棄しなければならない。
核をめぐる問題ではサミットは十分だったとはいえない。各首脳の原爆資料館視察が実現し、「広島ビジョン」は核軍縮を促した。それはよいとしても、核の脅威から諸国民を現実的に守る重要性についても語られるべきだった。核兵器不使用の機運を高めることは重要だが中露、北朝鮮が「核兵器のない世界」の実現に協力するとは極めて考えにくいからだ。
核兵器の脅威には自国または同盟国の核兵器の備えで抑止するしかない厳しい現実があるのに、目をそらしている人々がいる。中露、北朝鮮は核戦力強化を急いでいる。核の惨禍を避けるために、G7側が核抑止態勢を整えざるを得ない点を岸田文雄首相らG7首脳は正直に説くべきだった。
核抑止をなぜ語らない
G7は経済でも、グローバルサウスとの協調を打ち出した。食料安全保障強化のためG7と招待国8カ国がまとめた広島行動声明は、ロシアのウクライナ侵略が食料安保の危機を「さらに悪化させた」と明記し、協働する方針を示した。中・低所得国の債務問題支援や質の高いインフラ投資でも協力姿勢を強めた。
グローバルサウスの国々は経済的利益を見極めようとしている。G7は、これらの国々との協調を具体化できるかが問われる。
これは経済安全保障でも重要な布石となる。G7は中国などの経済的威圧への対処で新興・途上国と連携する方針を掲げた。経済的威圧への対抗措置として創設する枠組みを活用していきたい。
G7は対中関係を念頭に、デカップリング(切り離し)ではなく、経済依存に伴うリスクを回避する「デリスキング」を打ち出した。米中両国間でさえ昨年の貿易額は過去最大だった。現実的なアプローチだろう。半導体やレアアース(希土類)などの重要物資で安定的供給網を築くべく新興・途上国への働きかけを強めたい。
焦点の生成人工知能(AI)に関しては、国際的なルール作りに取り組む広島AIプロセスを年内に創設する。中露などの専制国家にAI技術を悪用されないようG7が主導してルールを確立することも、安定的な国際秩序作りに欠かせない。
◇
2023年5月22日付産経新聞【主張】を転載しています