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英政府が、新たな外交・安全保障政策の指針「統合レビュー」を公表した。国家戦略の重心をインド太平洋に置くことを打ち出した。冷戦後最大の外交・安保政策の転換といえる。
指針は、インド太平洋を「地政学上の競争の中心」と指摘した。中国について、「経済関係を追求」するとしつつも、「英国の経済安保の最大の国家的脅威」と名指しした。中国による軍の近代化や太平洋での独断的行動が国益にとって「ますます大きなリスク」になっていると警戒した。
インド太平洋地域は世界経済の中心であり続けることが確実視されている。欧州連合(EU)を離脱し、「グローバル・ブリテン」(世界の英国)を掲げる英国が、自国の発展のためにインド太平洋を最重視し、そこでの国際秩序を乱している中国を警戒するのは当然といえる。
指針が日本を「最も緊密な戦略的パートナー」と位置付けたことを歓迎したい。
日英両国は、自由や民主主義、法の支配といった基本的価値観や、「自由で開かれたインド太平洋」を推進するという戦略目標を共有している。
2017年に来日したメイ首相(当時)は「日英は自然なパートナーで、自然な同盟国」と述べた。英政府はしばしば日本を「同盟国」と呼ぶ。条約上の同盟を結んではいないが、明治、大正期の日英同盟の下での緊密な関係を想起したい。日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国の安全保障協力の枠組み「クアッド」も英国と連携すべきだ。
指針は英国の核弾頭保有数の上限を180発から260発に引き上げる方針を示した。これに対して批判があるが、安全保障上のやむを得ない措置と見るべきだ。
中国は米国が再三求めても核軍縮交渉に応じず、核・ミサイル戦力を増強し、日米欧にとって共通の脅威となっている。米国防総省は昨年9月、中国が今後10年で核弾頭数を「少なくとも倍増すると推定」した。プーチン露大統領はクリミア併合時に核兵器使用の準備をしていたことを公言した。
日本との安全保障上の連携を求める英国の核保有増は、中露の核戦力増強が核バランスを歪(ゆが)めて日米欧を守る核抑止力を弱体化させることに対抗する、現実的な手立てといえる。
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2021年4月4日付産経新聞【主張】を転載しています