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ロシアのプーチン政権が、第二次大戦期のソ連の行動を正当化する目的で日本をおとしめる情報戦に出ている。
「日本は対ソ細菌戦を準備していた。ソ連は対日参戦によって世界を細菌戦から救った」というのがロシアの宣伝の骨子である。
むろん根拠に乏しい荒唐無稽な言い分だが、日本が反論せずに沈黙していれば、虚説が独り歩きして世界に広がる恐れがある。すでに中国メディアがロシアの宣伝に同調し始めている。
ソ連は1945年8月、有効だった日ソ中立条約を破って対日参戦し、北方領土を占拠した。戦後には日本軍将兵や一般邦人ら約60万人をシベリアなどに抑留し、約5万5千人が犠牲となった。
プーチン政権の狙いは、日本を徹底的に「悪者」に仕立て、大戦にまつわるソ連の不法行為を帳消しにすることである。
連邦保安局(FSB)は8月、旧関東軍に関する文書の機密を相次いで解除し、国営メディアが大きく報じた。
公開されたのは、戦後に抑留されていた関東軍将兵らがソ連当局の尋問に答えたとされる内容だ。「七三一部隊(関東軍防疫給水部)では対ソ戦に使う目的で細菌戦の研究が行われ、人体実験もあった」といった趣旨である。
関東軍将兵らの長期抑留自体が国際法(ジュネーブ条約)やポツダム宣言に違反するものだった。自由を奪われ、弁護人もなしに行われたソ連の取り調べ内容を真に受けることはできない。
ロシアでは9月上旬、ソ連が七三一部隊関係者らを一方的に裁いた「ハバロフスク裁判」(49年12月)の意義を再確認する会議も開かれた。ナルイシキン対外情報局(SVR)長官が会長を務める露歴史協会やFSB、外務省などが共催する国家行事である。
プーチン大統領やラブロフ外相が会議にメッセージを寄せ、ラブロフ氏は「日本軍国主義の残虐行為を将来まで記憶することが重要だ」と述べた。ハバロフスク裁判も国際法に反するものであり、法的効力は認められない。
日本が強調すべきは、日ソ中立条約を日本が順守したからこそ、ソ連は熾烈(しれつ)な対ドイツ戦に勝利できたという歴(れっき)とした事実である。日本政府が声を上げねば、誤った歴史認識が定着し、北方領土の返還もますます難しくなろう。
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2021年9月21日付産経新聞【主張】を転載しています