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まず、優勝した日本代表に、ありがとうと言いたい。それほど今回のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は野球という競技の喜びにあふれていた。
メキシコとの準決勝では不振にあえいだ若き三冠王、村上宗隆の逆転サヨナラ打で勝ち上がり、米国との決勝ではダルビッシュ有、大谷翔平の豪華リレーで最後は大谷が大リーグ最高のスター打者、マイク・トラウトを空振りの三振に取る超劇的な幕切れで列島を興奮に包んだ。現実が想像を超えるところに野球の、スポーツの妙味がある。
日本代表は全勝で勝ち抜いただけでなく、試合中、試合後の振る舞いで敗者から尊敬を得続けた。そこにすがすがしさがあった。
大会は、素敵(すてき)な言葉にも彩られた。日本に敗れたメキシコのヒル監督は「今夜の試合は野球界にとっての勝利だ」と話し、米国のデローサ監督も決勝後、「今夜の勝者は野球ファンだ」と語った。それほど試合は、野球の楽しさを余すところなく伝えた。これが大会の最大の成果である。
栗山英樹監督がダルビッシュや大谷を代表に呼んだ口説き文句は少年野球人口減少への危機感だったという。米国でも主将のトラウトが自ら声を掛けて最強打線を構築した。米国に劣らぬスター選手を集めたドミニカ共和国が1次リーグを突破できないほど、各国のレベルは拮抗(きっこう)した。1次リーグで日本を苦しめたチェコなど、欧州の国の健闘も目を引いた。
WBCは大リーグとその選手会が野球のグローバル化を目指して立ち上げ、2006年に第1回が開催された。米国偏重の利益分配や複雑な大会規定に反発もあったが、当時の王貞治・日本代表監督は「まず始めよう。そして皆で育てよう」と語った。
その大会が、ここまで育ったのだ。決勝戦でも同点本塁打を放った村上は09年大会の日本の優勝に興奮し、小学校の卒業文集に「WBCに選ばれて世界で活躍したい」と記した。村上や大谷の活躍を見た子供たちが未来のWBCを夢見る。それが栗山監督の描く希望だったのだろう。
サッカーのワールドカップも、1930年の第1回大会は出場13カ国に過ぎなかった。今日の隆盛を勝ち取ったのは選手の奮闘と関係者の熱意である。今大会を見る限り、WBCの未来は明るい。
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2023年3月23日付産経新聞【主張】を転載しています