Skulls Museum 004

A skull-themed artwork made from egg shells. (©Hideaki Furuno)

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兵庫県尼崎市の国道2号沿いにある「シャレコーベ・ミュージアム」。車で前を通るたびに気になっていたのだが、いざ訪れてみると、館内は文字通り、骸骨、骸骨、骸骨…。医師の河本圭司さんが世界各地で収集した本物の骸骨やドクログッズで埋め尽くされていた。なぜこのような博物館を? そこには奥深いテーマがあった。

 

 

〝怖い〟お出迎え

 

国道2号側の建物正面の壁には「世界初! 頭蓋骨博物館」の文字とドクロのマーク。横側には大きな頭蓋骨のレプリカが張り付いている。これだけでも十分インパクトがあるが、裏側にある入り口に回ってさらに驚いた。建物そのものがドクロの形をしているのだ。

 

「車を運転している人がギョッとなったら危ない、ということで、ややこしい話ですが、裏側を正面にしたんだそうです」

 

建物そのものが骸骨の外観のシャレコーベ・ミュージアム。国道2号からは見えないこちらが正面となる=兵庫県尼崎市(古野英明撮影)

 

4年前に亡くなった河本さんの後を継いで館長を務めている長女で薬剤師の佳代さん(49)は説明する。目、鼻、口の部分は窓ガラスなどで表現し、頭蓋骨の凹凸や縫合線まで再現するリアルさ。外観だけでも河本さんのこだわりようがうかがえる。

 

シャレコーベ・ミュージアムを創設した河本圭司さん(家族提供)

 

中に入ると、花嫁の骸骨が新郎の骸骨を抱き上げている格好の「人形」がお出迎え。これを見て火がついたように泣き出し、見学どころではなくなる子供もいるそうだ。

 

展示スペースは1階から3階まで3フロアあり、展示棚には「ドクロ」がぎっしり。本物やレプリカの頭蓋骨のほか、アクセサリー、文具、絵、ドクロをモチーフにしたスロットマシン、ハロウィングッズ…とドクロに関係したものは何でもある。

 

館内に入ると、出迎えてくれる骸骨カップル。電動で動き、目も光る=兵庫県尼崎市(古野英明撮影)

 

常時展示しているのは、コレクション約8千点のうちの約千点とほんの一部。「趣味とはいえ、よくぞここまで集めたなと思います」。佳代さんは亡き父をしのび、目を細めた。

 

 

骨董品店で衝撃

 

創設者の河本圭司さんが米国で購入した装飾スカル

 

関西医科大教授だった河本さんは脳神経外科医で、日本脳腫瘍病理学会などの会長を歴任した。仕事柄、頭蓋骨には造詣が深かったのだが、趣味としてのめりこみ始めたのは40年近く前。昭和61年、米サンフランシスコで開かれた学会に参加した際、たまたまのぞいた骨董品(こっとうひん)店でチベット高僧のものとされる装飾スカル(頭蓋骨)を入手したのがきっかけだった。

 

メタルで装飾し、目の部分にガラス玉を入れた本物のスカルで、河本さんは解説パネルに「衝撃を受けた」と記している。これを購入して日本に持ち帰ったところ、「家庭に不幸をもたらし、おはらいをした」とも。「父は車が大破する事故に遭い、ほかの家族も相次いで事故に遭いました。その後は何事もなく平穏でしたが…」と佳代さん。

 

創設者の河本圭司さんが米サンフランシスコで購入した装飾スカル=兵庫県尼崎市(古野英明撮影)

 

卵の殻で作ったドクロ作品

 

以降、河本さんは、本物やレプリカの頭蓋骨だけでなく、ドクロをモチーフとしたグッズや絵などを片っ端から集めていった。旅行のたびにスーツケースいっぱいにグッズを購入し、高額の品も躊躇(ちゅうちょ)なく買うため、「母がクレジットカードを取り上げたこともあった」という。

 

コレクションが充実し、「2003年3月3日3時3分3秒」に私設のミュージアムを設立。「2011年11月11日11時11分11秒」に一般公開を始めた。

 

河本さんは少し時間があるとミュージアムにこもり、コレクションの整理をしたり研究をしたりと「骸骨とたわむれていた」という。

 

「骸骨、ドクロ好きの人が来るんやから、その人たちを上回らなあかんのや、と常々話していました」

 

河本さんは令和元年8月、75歳で亡くなった。

 

階段に展示されている「モナ・リザ」のレプリカ。少し角度を変えて見るとドクロの顔になる=兵庫県尼崎市(古野英明撮影)

 

「生」を考える

 

比類なきミュージアムだが、単なるドクロ趣味ではなく、奥深いテーマがあるという。

 

「金持ちでも貧しくても、人間、死んだらみんな同じ姿になる。ドクロを見て、『生きている』ということを考えてほしい」

 

そう言っていた父の遺志を継いだ佳代さんは「知識はないし、薬剤師の仕事もあるので、父のようにはできませんが、そのテーマは大事にしたいと思っています」と話す。

 

ただ、ミュージアムがホラーハウス扱いされるのを嫌っていたという河本さんと違い、佳代さんは「怖いもの見たさ的な楽しみ方でも、まずは見てもらうこと」と考える。

 

「ぐちゃぐちゃとまとまりがないように見えて、中にはきちんとしたものもあるし、グッズにしても一つ一つ表情が違っていて楽しいんです。工芸品を楽しむような感覚で見てもらう中で、『生』を感じていただければ」

 

2代目に気負いはない。

 

展示棚以外のスペースも大がかりなドクログッズや人形が並ぶ=兵庫県尼崎市(古野英明撮影)

 

筆者:古野英明(産経新聞)

 

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