押収された人気アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」などのフィギュア
=5月、京都市右京区(木下倫太朗撮影)
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人気アニメのキャラクターフィギュアに別のフィギュアの胴体などを取り付ける手法「魔改造」。日本のアニメや漫画が世界から高い評価を受け、一大産業に成長する一方で「偽物」や「盗作」が多発するようになり、損失額は盗作だけで1兆円を超える。国内だけでなく海外からも知的財産権が侵害され、取り締まる捜査当局といたちごっこが続く中、制作会社も対策を迫られている。
ずらりと数十体が並んだ人気アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のフィギュア。多くは登場人物の一人、「惣流・アスカ・ラングレー」だが、いずれも実物とは異なり性的な見た目を強調した物ばかりだ。
このフィギュアは、岡山県津山市の男(54)が魔改造を施し、オークションサイト「ヤフオク!」に出品。先月、京都府警はこれらのフィギュアを販売し著作権を侵害したとして、著作権法違反容疑で男を逮捕した。
男はサイトでアスカなどの偽フィギュアを計数千円で調達し、その頭部と胴体をつなぎ合わせて約1万円で販売。令和2年6月~昨年10月に180万円の売り上げがあったという。捜査関係者は「(もとが)偽フィギュアなのでそこまで精巧ではないが、一目でアスカだと認識できる」と話す。
フィギュアを大きく作り替える「魔改造」のほか、漫画作品などをインターネット上に無断掲載する「海賊版サイト」や、映画の内容を短縮した動画「ファスト映画」など、国内のアニメや漫画などの創作物への著作権侵害は後を絶たない。一般社団法人ABJ(東京)によると、漫画を無断掲載する海賊版サイトによる被害額は昨年1兆19億円にのぼった。
こうした状況に捜査当局も取り締まりを強化。平成30年には、海外の作品を中国語に翻訳しネット上に投稿する集団「漢化組」の中国人の男らを全国9府県警が共同で摘発した。令和元年には国内最大級の海賊版サイト「漫画村」の運営者の男が逮捕された。だが、著作権の侵害は、国内だけでなく海外から行われるケースも多く、京都府警の担当者は「海外でサイトを運営している場合、対応が困難になる」と摘発には高いハードルがあると指摘する。
著作権を侵害されている制作者側も手をこまねいているわけではない。一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA、東京)は、平成21年に「CODA自動コンテンツ監視・削除センター」の運営を開始。海賊版サイトの削除や運営者の口座凍結などの対策を図る。一方、少年サンデーなどを出版する小学館(東京)は昨年末から、海外のファンと協力して正規の翻訳版を制作し、配信するサービスを開始。海賊版を作られる前に自前で提供するという〝逆転の発想〟で、撲滅に取り組んでいる。
「一般市民でも著作権のある画像や作品をネットで公開できるようになり、意図せずに著作権を侵害しているケースもある。ネットや交流サイト(SNS)の普及により、被害は拡大した」。知的財産権保護に詳しい近畿大の小橋馨教授はこう指摘する。
海賊版サイトの場合は「制作会社や出版社にとって経済的打撃が大きい」とし、運営者を訴えても十分な損害賠償を得られない「やられ損」になっていると説明。海賊版サイトによる権利侵害の裏には、何万人ものサイト利用者が存在していることを踏まえ、「一般市民が著作権についての知識や理解を深めるための教育が必要だ」と話した。
筆者:鈴木文也(産経新聞)