Japanese Seafood Embargo by China Anti Japan action 002

Wang Wenbin, Deputy Spokesperson of China's Ministry of Foreign Affairs, holds a press conference in Beijing on August 22, the day Japan announced it would release treated water from August 24. (©Kyodo)

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中国が日本からの水産物の禁輸を発表した。1か月前、中国による日本の水産物の全量検査に対して「日本は対抗措置を」と本欄で提言した。しかし、岸田内閣は何らそうした対応を行わないまま、東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出に至った。

 

岸田文雄首相も野村哲郎農水相もそろって中国による禁輸を「想定外」とコメントしたことには驚きを禁じ得ない。岸田内閣の危機管理の欠如を露呈した発言だ。そして相変わらず「科学的合理性を説明して、撤回を求める」という単純な外交にとどまる。こうした生ぬるい対応では事態打開はおよそ期待できない。

 

中国による水産物禁輸は、処理水放出への対抗措置ではなく、政治的意図による「経済的威圧」だ。これに効果的に対処できなければ、日本はくみしやすい相手と見られて、今後も他の分野で経済的威圧が繰り返されるだろう。それを抑止するためにも「行動」が必要なのだ。経済安全保障の根幹が問われている。

 

北京市内の海鮮市場。東京電力福島第1原発処理水の海洋放出開始後、中国産の海産物も販売も悪化しているという=8月29日(産経、三塚聖平撮影)

 

日本が取るべき五つの行動

 

戦略的に外交を展開するために、以下の「五つの行動パッケージ」を緊急提言する。

 

①中国からの水産物に対して全量検査を実施する。中国の原発からのトリチウム排出量が福島第1原発の処理水の5倍以上であることを理由として全量検査を行うことで、中国国内への情報発信にもなる。

 

②世界貿易機関(WTO)に提訴する。2020年、オーストラリアが新型コロナウイルス発生の原因究明のため独立調査を求めたことに関して、中国が豪州から輸入する大麦、ワインなどに追加関税を課した措置に対して、豪州はWTOに提訴している。提訴も今後の外交交渉における交渉カードとして重要だ。

 

中国からの着信履歴が表示されたスマートフォンを手にする飲食店経営者。「もう来ないといいが…」と困惑する=8月28日、福島市(産経、芹沢伸生撮影)

 

③5月の主要7か国首脳会議(G7サミット)で合意された「経済的威圧に対する共同対処」として本件をG7議長国として取り上げて、代替市場の開拓への支援を求める。

 

④日本産ホタテの中国での加工施設を中国外に移し、中国に依存しないサプライチェーンを早急に構築する。ホタテは人件費の安い中国で殻外しなど加工作業をして米国に輸出されるものも多い。加工を中国外ですることで中国依存を下げる結果、中国の雇用も失われるので、中国に対する牽制として打ち出す。

 

⑤中国原発からのトリチウム排出、中国漁船による三陸沖でのサンマの大量捕獲など中国の行動の矛盾を突く、中国消費者や国際世論への効果的な情報戦を行う。

 

東京電力福島第1原発処理水海洋放出や、外交、安全保障面で日本を非難する記事を掲載した中国各紙(共同)

 

外交カードとしての思惑も

 

日本が海洋放出を停止しないことが想定される中で、福島第1原発の処理水を「核汚染水」と呼んで印象操作をし、中国国内の世論を沸騰させ、理不尽な強硬措置に出る中国の狙いも見極めるべきだ。

 

中国のアキレス腱であり、米中対立の主戦場である半導体の規制を巡る駆け引きで、中国が本件を外交カードとして使う思惑も見え隠れする。9月の国際会議に合わせて日中首脳会談の調整に入っていただけに、日本は中国に禁輸の撤回を求めるだけの「単線外交」ではいけない。

 

筆者:細川昌彦(国基研企画委員・明星大学教授)

 

 

国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第1065回(2023年8月28日)を転載しています

 

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