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インドも日本も、両国の多数派を占める穏健保守派は、表立ってものを言わない。インドと向き合って30年、うち13年滞在した確信です。
インドの穏健保守の価値観は、その憲法にある通り、民主主義と法による秩序であって、その法治国家としての存在は21年日本外務省の外交青書に書かれている通りです。しかし、欧米や日本で目にするインド報道は、もの言わぬインドの穏健保守の意見を代弁してはいません。
私は、インド中央の政権与党の政治家、支持者の言動を社会科学的に観察してきました。彼らは決して宗教じみているわけではありません。民主主義と法による秩序を重んじているのです。彼らの生活には深く宗教哲学がしみ込んでいるのは事実です。しかし、彼らにとって、政教分離は常識です。インドの国章、アショカの獅子柱頭に代表される自己の土着性への誇りこそが、インド中央の政権与党を支持する人たちの価値観なのです。
インドの代表的な隣国は、中華人民共和国とパキスタンであることはよく知られたところです。中華人民共和国の宗教に対する政治的立ち位置は、同国憲法の国体の定義の中に、社会主義の言葉があるが如く、「宗教はアヘンである」という旧ソ連の独裁者スターリンの言葉が当てはまるのでしょう。
一方、パキスタンの「パキ」とは、「(イスラムとして)純粋な」を意味し、「スタン」とは「邦」です。彼らの政策は、その国名の通りです。
確かにインドは多民族・多宗教で、それら隣国との軋轢が無いわけではありません。しかし、そこだけを強調するのは悪意ある宣伝行為と言わざるを得ません。
一神教が国民の信仰の大多数を占める国々の多くは豊かな国です。さらに、世界第二位の経済大国、中国も含め、豊かな国の世界における発信力は、インドの穏健保守層の声に比べれば、比較にならないほど大きいのです。しかし、そうした豊かな国の報道は、決してインドの穏健保守の意見を代弁しているものではない。そのことを頭に入れて、我々日本の保守は、世界のインド報道を読むべきです。
世界のメディアは、モディ首相はじめ政権与党に宗教のレッテル張りをしたがります。しかし、彼らは、宗教に偏向なのではなく、インド最古の聖典、ベーダや神々への讃歌を集めたインド最古の文献、リグベーダなどに残された自己の土着性を背景とする古代から伝わる価値観を重んじているのです。
日本の穏健保守が穏やかな神道を自然に受け入れていることを理解していれば、世界のメディアのインド報道が、いかに宗教のレッテル張りに終始し、偏向した視点に立ったものであることは想像に難くないでしょう。
拙著の「インドでビジネスを成功させるために知っておくべきこと(幻冬舎)」ご参照下さい。
著者:高橋信浩(元インド日本商工会議所アドバイザー。インドの英語ニュースサイト、アジア・コミュニティ・ニュース編集諮問委員。ヨガ教師)