岸田文雄首相がビデオメッセージを寄せた民間団体主催の憲法集会
=5月3日午後、東京都千代田区(田中一世撮影)
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世論調査は、時に矛盾した数字を導く。それを端的に示したのが、憲法記念日の3日に朝日新聞が掲載した全国世論調査だった。それによると、憲法9条を「変えるほうがよい」は33%にとどまり、「変えないほうがよい」の59%に遠く及ばない。9条改正は支持されていないようにみえる。
ところが同じ調査で、9条1項、2項はそのままにし新たに自衛隊の存在を明記する自民党の9条改正案を問う設問では、賛成が55%と反対の34%を大きく上回っていた。はて国民の判断はどっちなのか。調査結果はつじつまが合わない。
察するに有権者の多くは9条改正と聞くと、平和主義を放棄するようなもっと抜本的な変化を思い浮かべて忌避するのではないか。または自民党の努力が足りず、自衛隊明記案がまだ十分に浸透していないためか。あるいはその双方が原因か。
自衛隊の9条明記案については、読売新聞も3日掲載の全国世論調査で質問していた。回答は賛成58%、反対37%と朝日と同様で、どちらも20ポイント以上賛成が多い。読売の調査では、憲法条文を改めたり、条文を加えたりする方がよいと思うものを複数回答で聞いたところ「自衛のための軍隊保持」(45%)が最多でもあった。
平成30年1月実施の内閣府世論調査でも、自衛隊に良い印象を持つ人は約9割に達した。まして日本の周辺国は現在、ロシアがウクライナを侵略し、北朝鮮は一つ覚えのようにミサイルを発射し続け、中国は台湾への侵攻意図を隠さない。自衛隊の憲法への位置付けは急務である。
「自衛隊の違憲論争に終止符を打つ」。こう述べる岸田文雄首相には有言実行を願う。多数派の国民は、憲法が定める国民投票の権利を初めて行使できる日を待っている。
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2022年5月7日付産経新聞【産経抄】を転載しています