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ウクライナ侵略戦争とイスラエル・ガザ戦争は、米国に中国との大国間競争に集中するだけの余裕を与えない。まして、米国がこれらの戦域に直接介入すれば、「アジア正面」の台湾防衛に動くパワーがそがれてしまう。
インド太平洋にできるわずかな「力の空白」でも、中国は戦略的好機とみて埋めようとする。この新しい帝国主義が腹黒い動きを見せるとき、ふと南海先生ならどう対処するだろうかと考える。
南海先生とは、中江兆民が描く『三酔人経綸(さんすいじんけいりん)問答』に登場する高名な戦略家である。3人の経綸問答には、非武装を主張する洋学紳士、弱小国を征服せよと息巻く豪傑君、そして高名な学者である南海先生が登場する。兆民が描くのは、「軍備なき平和」と「力による平和」の越えがたいジレンマと対立であった。それらの選択肢は、作中の南海先生が示唆する日米同盟などの「防衛戦略」という現実主義で結実する。
筆者:湯浅博
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2024年4月5日付産経新聞【湯浅博の世界読解】より