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毎日新聞デジタル版は5月30日、殺人未遂罪などで服役中の元日本赤軍最高幹部・重信房子受刑者が先のイスラエルとハマスの戦闘について、「パレスチナ人を葬ろうとする企(たくら)み」だと非難したと報じた。重信受刑者がこのメッセージを寄せたのは、武力によるパレスチナ解放を目指すパレスチナ解放人民戦線と日本赤軍が連帯して実行したイスラエル・テルアビブ空港乱射事件から49年を記念する集会だという。
同集会の主催者側の告知では、この空港乱射事件を、民衆連帯の力で差別を打ち破るための「闘争」と位置づけ、実行者の奥平剛士、安田安之、岡本公三を「3戦士」と称賛、「リッダ闘争(同事件の別称)の仲間は『葬列よりも、祝祭を!』と言って決死作戦に旅立って行きました」とあからさまにテロを賛美している。発言者には社会学者・宮台真司氏や元日本赤軍の映画監督・足立正生氏の名もある。
同事件は1972年、日本人テロリスト3人がイスラエルの空港で群衆に向け自動小銃を乱射し手榴弾(しゅりゅうだん)を投げつけ26人を殺害、73人を負傷させた無差別テロである。民間人を標的とした卑劣なテロとして国際的非難をあびた同事件を、反イスラエル、反占領を掲げるパレスチナの過激派は称賛した。3人のうち唯一、生き延びて終身刑をうけた後、捕虜交換で釈放された岡本の面倒を今も見ているのはパレスチナ関係者だと足立氏は『デイリー新潮』に語っている。
毎日はテロを闘争という言葉に置き換えて美化する集会を取材し、来年出所予定とされる重信受刑者の「来年のリッダ闘争50周年には皆と共に乾杯することを願って」「パレスチナの戦友に思いをはせながら、反占領のアクションが始まることを願ってやまない」というメッセージまで報じている。
毎日の報道は反差別、反占領という「大義」のためならば無差別テロも正当化されるという身勝手なテロリストのイデオロギーの拡散そのものだ。インターネット上の同記事には先の戦闘でガザの子供が多数惨殺されたという記事がリンクされている。テロを賛美する過激派と一緒になって、イスラエルへの憎悪、敵意をあおっているのも同然だ。
ハマスのイスラエルに対するロケット弾攻撃は空港事件同様、民間人をも狙った無差別テロである。どのような理由を持ち出そうと決して正当化されてはならない。毎日は人間としての最低限の倫理も失っていると言わざるをえない。
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筆者:飯山陽(いいやま・あかり)
昭和51年、東京都生まれ。イスラム思想研究者。上智大文学部卒、東大大学院博士課程単位取得退学。博士(文学)。著書に『イスラム教再考』など。
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2021年6月27日付産経新聞【新聞に喝!】を転載しています