政権の総仕上げ時期に入った安倍晋三首相(自民党総裁)による今回の内閣改造・党役員人事の狙いは、布陣を見れば明確だ。一つは、悲願の憲法改正に向けて自身をずっと支えてきた者を枢要な地位に置き、政権基盤の「安定」化を図ったことだろう。もう一つは、各派閥のポスト安倍に向け「挑戦」する立場の者を互いに競わせ、成長を促していることといえる。
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「党全体で憲法改正に向かうようにしなければならない。首相が、独りで張り切っているみたいになってはいけない」
麻生太郎副総理兼財務相とともに留任した菅義偉(すが・よしひで)官房長官は改造前、こう指摘していた。首相には、特に幹事長と政調会長を任命する際、その点を確認するよう進言したという。
その通り、二階俊博幹事長と岸田文雄政調会長は11日の就任記者会見で、憲法改正に積極的な姿勢を強調した。側近の世耕弘成前経済産業相も参院幹事長に就き、首相は今後、党をもり立てながら改憲へと邁進(まいしん)する覚悟だ。
閣僚を見ても、再登板の高市早苗総務相や加藤勝信厚生労働相、衛藤晟一(せいいち)1億総活躍・少子化担当相、萩生田光一文部科学相ら、首相と政治信条や政策の方向性で一致し、安倍路線を継承する者で要所を固めた。閣内にブレが生じないように引き締めたのだ。
背景には、憲法改正は安倍内閣のうちに断行しないと、近い将来の実現は極めて困難だとの認識がある。参院選前の6月、周囲に改憲への意欲を問われた首相は、こう明言した。
「憲法改正は私がやる」
北朝鮮による日本人拉致問題やロシアとの北方領土問題を解決した上での平和条約締結は、相手国があることなので不確定要素が大きい。だが、憲法改正はあくまで国内問題であり、首相と自民党が腹をくくれば後は国民の判断次第だ。
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一方で閣僚の顔ぶれは、「安倍後」を見据えた配置ともなっている。首相は10日夜、こう述べていた。
「各派のホープ、リーダー候補たちを入れた。それぞれ切磋琢磨(せっさたくま)してもらう」
例えば細田派では萩生田氏と西村康稔経済再生担当相、竹下派では茂木敏充外相と加藤氏と、将来それぞれの派を背負って立つことになる者を、あえて競わせようということだ。
麻生派では、ポスト安倍候補の一角である河野太郎前外相を横滑りで防衛相に就け、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)の名護市辺野古への移設問題など、難しい問題を担当させることで修業を積ませる。
また、ポスト安倍の有力候補である岸田氏への配慮もにじむ。
竹本直一科学技術担当相と北村誠吾地方創生担当相は、かねて岸田派が強く入閣を求めていた。首相がこれに応じたのは、先の参院選で岸田派の4人が落選し、派内で岸田氏の求心力低下が指摘されていたためだとされる。
若い小泉進次郎環境相の抜擢(ばってき)は、小泉氏の強い発信力と将来性を買ってのことだ。前回の党総裁選で石破茂元幹事長に投票した小泉氏を、石破氏サイドから引きはがす意味もある。
筆者:阿比留瑠比(産経新聞論説委員兼政治部編集委員)