~~
「中国は必要な景気刺激策をためらうな」とは7月18日付の日本経済新聞朝刊の社説見出しである。
平成バブル崩壊後、25年以上も慢性デフレが続いてきた自国(日本)に関しては、ことあるごとに緊縮財政や消費税増税を求める一方で、「構造改革」を勧奨してきた日経が、こと中国に関しては財政出動の重要性を説くのには少なからず驚かされた。中国経済の不動産バブル崩壊不況が長期化すれば、世界や日本の景気にも悪影響が出かねないとの懸念は日経に限らないのだが、かの習近平独裁政権には無理スジもよいところだ。
中国の経済不振の原因はその特異な構造にある。習政権は共産党がカネと土地を支配する仕組みに極度に依存し、不動産開発主導で国内総生産(GDP)を押し上げてきた。上海など大都市圏の中間層は貯蓄代わりに2件目、3件目のマンションを購入し、値上がりを期待する。これまでにも何度も、住宅相場値下がりの局面はあったが低迷は数カ月間にとどまり、反転してきた。政府のテコ入れ策が効いたのだ。不動産神話は揺るぎないと思われた。
ところが、今回は違う。値下がりを実勢よりも低く見積もりがちな中国国家統計を見ても、住宅需給を反映する中古住宅相場は2021年初めをピークに不振が続き、今年5月時点でもピーク時より2割も低い。巨額の債務超過に陥った不動産大手、中国恒大集団は時間経過とともに評価損が膨らんでいる。
中国各地の都市に林立する高層マンション群は供給過剰なのだ。しかも、日本より10年ほど遅れて進行する人口構成の高齢化を背景に、今後マンション需要が好転する見込みはゼロだ。売り手が大幅値下げしても、買い手はもっと下がると見込んで買い控えるという悪循環に陥っている。それは平成バブル崩壊後の日本を彷彿(ほうふつ)させるのに十分だ。
バブル崩壊不況対策は金融と財政の両面からの需要喚起に尽きるが、中国の場合、いずれも限界がある。大幅利下げすると資本流出が急増し、人民元が暴落しかねない。外国企業や投資家は昨年3月以降、対中投資を引き揚げつつあり、人民元を買い支えるために必要な外貨は不足している。
中国の財政出動は地方政府主導だが、地方政府の財政収入の7、8割が土地使用権の販売収入による。不動産相場と不動産開発が不振を極めている中では地方債を増発するしかないが、買い手は少ない。ならば、中央政府が国債を増発するしかないが、そのためには中国人民銀行がまず、市場で国債を買い上げる量的緩和策をとることが前提になる。ところが、経済学者出身の易鋼人民銀行総裁は慎重だ。外貨の裏付けなしの資金発行は人民元の信用を損ない、人民元安と資本逃避を引き起こしかねないからだ。
グラフは不動産投資と都市部若者(16~24歳)の失業率を6カ月単位で追っている。失業率は軸を反転させており、両者の連動ぶりがよく見えるようにした。このトレンドを止める決め手は見当たらない。
筆者:田村秀男(産経新聞特別記者)
◇
2023年7月23日付週刊フジ【お金は知っている】を転載しています