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萩生田光一経済産業相は4月27日までに産経新聞の単独インタビューに応じ、ウクライナに侵攻するロシアが安全保障理事会の常任理事国として拒否権を持つ国連の改革について「今後、ロシアの暴挙が深刻になれば、国連は国際社会のルールづくりをやるべきだ。世界は日本に一歩前に出てほしいと考えている」と述べ、岸田文雄首相が国連改革に積極的に関わるべきだとの考えを示した。
ロシア極東サハリンの石油・天然ガス開発事業「サハリン1」と「サハリン2」に関しては、「撤退すれば結果としてロシアを利することになる。現時点では堂々と日本の権益を確保する姿勢を貫く」と強調した。
原子力の活用については「新増設やリプレース(建て替え)は今の段階では考えていない」とした一方、原発再稼働は「私の責任でしっかり進めていく」と明言した。昨年10月に3年ぶりに改定した国の中長期的なエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」は、「2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)という大きなゴールは変えない」として当面は維持する方針を示した。
萩生田氏の発言内容は以下の通り。
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サハリンの権益 撤退しない
日本は資源の大半を海外からの輸入に頼らざるを得ないですが、ウクライナの緊迫化でわが国のエネルギー安全保障が損なわれることがあってはならない。そういう観点から、自国で権益を持ち、長期的かつ安価な資源の安定供給源として、ロシア極東サハリンで原油を生産する「サハリン1」と液化天然ガス(LNG)を生産する「サハリン2」、北極圏のLNG事業「アークティックLNG2」は、いずれも撤退しない方針を表明しました。
ロシアの侵略で多くのウクライナの人々が犠牲になる中、感情的にいえば、ロシアからの輸入を直ちに止め、ロシアに経済的なプレッシャーをかけるべきだという意見は分かります。ただ、サハリン1、2は長年日本が権益を持ってきた。仮に日本がこれらの権益を手放せば直ちに第三国がその権益を取りにくる。第三国に権益が渡らない場合でもロシアが原油やLNGを市場で取引すれば、今よりも高値で取引される可能性が高い。結果としてロシアを利することになる。だからこそ、現時点では堂々と日本の権益を確保する姿勢を貫きたい。
基本的に今後はロシアへのエネルギー依存度は下げますが、一国だけロシアとの取引を停止しても世界全体のエネルギー消費量が変わらなければ、資源の争奪戦が生まれ、エネルギー価格は上昇します。ロシアからの輸入を減らした分をカバーするため、例えば産油国には原油の増産、米国にはシェールガスの増産を要請しています。ロシア以外の各国の事情も考えながら、最善の選択肢をお互いに作り出す必要がある。
国連の在り方を再構築すべき
今後、ロシアの暴挙が深刻になれば、国連がテーブルをつくり、国際社会のルールづくりをやらないといけないでしょう。それができない国連ならば存在する意味はない。ウクライナ侵略に対する国連の動きに良識ある国は失望感を持っているのではないでしょうか。安全保障理事会の常任理事国の中に利害関係者が複数いて、一国でも拒否権を発動すれば物事が決まらないのならば、それは民主主義のルールではない。国連の在り方を再構築すべきで、世界は日本に国連改革で一歩前に出てほしいと考えていると思います。日本は来年、先進7カ国(G7)の議長国です。岸田文雄首相は国連改革を積極的にやるべきです。
昨年10月に閣議決定したエネルギー基本計画は、中長期的なエネルギー政策の羅針盤として残しておく方針です。ウクライナ侵略後のエネルギー事情には柔軟に対応はしますが、「2050年カーボンニュートラル」という大きなゴールは変えません。
一方、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で日本が石炭の脱炭素化に向けて提案した、燃やしても二酸化炭素(CO2)が出ないアンモニアや水素利用について欧州から「いっしょにやらせてほしい」と言われるなど、今、日本の技術力が見直されています。この点はウクライナ侵略という災いの中で唯一の光で、日本の科学技術の力で世界のエネルギー政策を牽引(けんいん)していきたい。原発については、新増設やリプレース(建て替え)は今の段階では考えていませんが、原子力規制委員会が新規制基準に適合すると認めた場合のみ、地元の理解を得ながら再稼働は私の責任でしっかり進めていきます。
今は非常事態
原油高対策では、首相から「大臣がリーダーシップを発揮して対策を考えてほしい」と指示されました。石油元売り各社への補助金上限を1リットル当たり5円から35円まで引き上げました。「(需給で価格が決まる)市場をゆがめる」との批判がありますが、新型コロナウイルス禍からの回復期にウクライナの緊迫化が加わり、今は非常事態です。ここは国民の生活を優先したい。ただ、異例の対策なのでいつかは終わりにしないといけない。国際社会と協調し、原油価格を落ち着かせる努力をしていきます。
夏の参院選は、各政策の効果が国民に伝わるよう、一つ一つ結果を出す努力を怠ったら勝てないと思う。やはり、給与を上げていくのが私たちの責務です。全国中小企業の声を聞き適正に価格転嫁ができるよう、取引実態を把握する「下請Gメン」の体制を強化しました。民間の経営に政府が介入するのは本来はおかしいのかもしれないが、誰かがやらないと賃上げのフェーズ(局面)は変わらないでしょう。私は恨まれてもやろうと思います。
「ポスト岸田」ですか? 気取るわけではないですが、私は初当選以来、自民党総裁や首相を目指す野心はありません。政治家の集大成として、最後、自民党幹事長はやってみたいなと思っています。
聞き手:小川真由美(産経新聞)