South Korea Japan History 004

South Koreans demand more compensation for already settled wartime clams

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ソウル地裁が先ごろ、日本統治時代に関わるいわゆる徴用工補償問題で、原告の訴えを退け日本の立場を支持する判決を下した。

 

外交的大問題を引き起こしている2018年の大法院(最高裁)判決を全面的に否定した、いわば下級審による〝反乱〟である。

 

国際法や国家関係を無視した従来の最高裁判決を批判し、国際的常識にしたがった〝正論〟だが、その内容は端的にいって、過去がらみの補償問題は1965年の国交正常化の際に国家間の約束として解決済みだから、もう日本側には要求できないというものだ。

 

最高裁判決に反する地裁判決なので今後、上級審での判断は不透明だが、日韓がらみではいつも「日本は悪で韓国は善」という雰囲気のなかで、今回の判決は世論の反発覚悟の勇気ある法治主義的判断である。

 

反発の例では、左派系新聞「ハンギョレ」の「日本の金で〝漢江の奇跡〟…わが国の裁判所か」という大々的見出しがそうだ(8日付)。判決が「国交正常化の際、日本から受け取った請求権資金が、その後の韓国の経済発展の基礎」などと指摘していることを、ひどく非難しているのだ。

 

韓国の裁判所なら、歴史的事実は無視してでも韓国人原告の立場に立つべきだとの論調だ。「どこの国の裁判長か」と、裁判長の弾劾・罷免を要求する〝ネット請願〟が大統領府には30万件以上、寄せられた。

 

ところが一方で、この判決を支持するこれまた勇気ある新聞論調もあった。

 

保守系「朝鮮日報」の主筆論評で見出しは「もうわれわれも日本に金をくれと要求するのはやめよう」となっている(10日付)。

 

徴用工補償問題は条約で解決済みであり、韓国経済は大いに発展した。なのにいまなお日本相手に金をくれという。21世紀の韓国はまだそんなケチくさいことを…と嘆いているのだ。

 

この論評も実はかなり世論を反映している。判決の是非は別に「また日本に金を出せか」「わが国がまだそんなことをいってるのは恥ずかしい」といった街の声は、結構多いからだ。

 

「朝鮮日報」の主筆論評には、もう一つ目を引いた指摘があった。過去がらみで日本側に個人補償を要求するとなると、同じ論理で日本人が敗戦後、韓国に残した財産について「個人請求権を行使する」といってくれば受け入れるのか、と問題提起しているのだ。

 

ちなみに日本は朝鮮半島からの撤収に際し個人財産を含む膨大な資産を放棄させられた。それらは進駐米軍に没収され、その後、韓国政府側に譲渡された。

 

日本はその請求権を52年に、国際社会との講和条約で放棄したことになっているが、これはあくまで国際条約上の国家間のことだから、日本人はその気になれば、個人請求権として韓国に補償を要求できるではないか、という話である。

 

日本が残した在韓資産の行方については昨年、李大根著『帰属財産研究』(2015年刊)という文献が存在することを、本紙で紹介した(近く日本で翻訳出版)。しかし日本人は今さら韓国に対し当時の財産を補償しろとはいわない。

 

それをいい出すと国家関係や国際秩序は乱れる。今回の地裁判決は、そのことを韓国社会に教えようとしているようにみえる。

 

筆者:黒田勝弘

 

 

2021年6月14日付産経新聞【緯度経度】を転載しています

 

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