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日本初の月面着陸を目指す実証機「SLIM(スリム)」などを搭載したH2Aロケット47号機が8月28日にも、種子島宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げられる。27日の予定だったが、悪天候が予想されるため延期された。スリムには、玩具メーカーのタカラトミーがJAXAなどと共同開発した変形型月面ロボット「SORA-Q(ソラキュー)」も搭載される。ソラキューには、玩具メーカーならではの技術やアイデアが詰まっている。
ソラキューは、野球のボールとほぼ同じ大きさの球体で、月面に着陸すると、一瞬にして左右に広がるように変形。2つに割れた外殻部分がそれぞれ車輪のように回転して月面の砂地を移動する。ソラキューはスリムが月面に着陸する直前に放出され、月面に着陸すると、スリムが月面に着陸する様子を撮影。その画像データを小型探査機「LEV-1」を通じて地上に届けることなどがミッションとなる。
開発過程でキーワードになったのは「変形」だ。平成28年の開発当初は、昆虫型ロボットも試作されたが、宇宙空間へ輸送するために極力小さく、そして軽量であることが求められた。そこで考えられたのが球体からの変形。同社では、「トランスフォーマー」など変形するロボット玩具を数多く開発しており、その技術が生かされた。
走行時の動きにも玩具開発で培ったアイデアが生かされている。ソラキューは、車輪の役割を果たす外殻部分が、左右同時に動く「バタフライ走行」と、別々に動く「クロール走行」の2種類で走行できる。車輪の軸には動物型ロボットなどに使用している「偏心軸」を採用。走行時の車体姿勢を工夫することで、月面の傾斜がある砂地でも進むことができる。開発時の実験では、最大で30度の傾斜を上ることに成功したという。
開発に携わった同社の羽柴健太さん(38)は「(ソラキューでは)ウミガメやサンショウウオなど砂地を移動する生き物の動きを参考にした」と話す。
ソラキューは、来月2日に販売用のフラッグシップモデルが発売予定。プロジェクトリーダーを務めた赤木謙介さん(42)は「今の子供たちにとって宇宙が身近な存在ではない」と話す。同社は開発にあたって、3~12歳の子供と成人計約500人を対象に、インターネットでアンケートを実施。「宇宙と聞いて想起すること」という問いに、子供の約25%が「特にない」と回答したという。
宇宙に興味を持ってもらうために玩具メーカーとして何ができるか-。赤木さんは「本物の月に行くロボットと同じものが自宅にある経験をしてもらいたい」と販売用のモデルも、宇宙に行くモデルと同じように再現することに注力した。
ソラキューは打ち上げから4~6カ月後に月面への着陸を試み、着陸後は、地球に戻ってくることはない。
「ソラキューで遊んだ子供が、将来宇宙飛行士になり、月に行ってソラキューを見つけてくれたらうれしい」
赤木さんの願いだ。
筆者:長橋和之(産経新聞)