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平安時代に活躍した栃木の武将、藤原秀郷(ふじわらのひでさと)が人気漫画にもあやかり、「平安の鬼滅」として注目度を高めている。「武士の始まり」とされる軍事的な実績に加え、数々の〝鬼退治〟伝説を持つ地元の英雄。その存在を地域活性化に生かそうとの市民の取り組みも軌道に乗り始めた。新型コロナウイルス禍だが、「遠くに行けない今こそ、地域の〝誇り〟を学び活性化につなげよう」と意欲的に取り組んでいる。
秀郷は、平安時代中期の貴族で武将でもある藤原家直系の子孫。朝廷に反逆した平将門を討伐した功績により、当時の武門では最高位で東北地方を治める鎮守府将軍になり、軍事的支配権を確立した武士の始まりといわれている。
別称で俵藤太(たわらのとうた)とも呼ばれ、都での大百足(おおむかで)退治や、宇都宮で百の目を持つとされる百目鬼(どうめき)を討つなどの英雄伝説も伝わる。晩年の足跡など不明な点が多く、現代では存在や歴史を伝える人も少なくなっている。
郷土の英雄「秀郷」の現状を変えようと立ち上がったのは、印刷会社社長の宮本誠さん(52)。平成28年から知名度アップに向けた活動を始めた。昨年3月には「栃木の武将『藤原秀郷』をヒーローにする会」を発足。秀郷や子孫、百目鬼など50体以上をキャラクター化したほか、市内ゆかりの地をめぐるイベントや勉強会を実施した。
昨年12月には会の事務局となる一般社団法人「武将伝説」を新たに立ち上げた。活動を広げるため個人だけでなく、企業や自治体などにも趣旨の賛同を呼び掛けていく考えだ。
人気漫画『鬼滅の刃』の大ヒットも、数々の鬼退治伝説を持つ秀郷のプロモーションに格好の追い風だ。宮本さんは「『鬼滅の刃』の主人公は秀郷がモデルという歴史学者もいるので、アピールする絶好のチャンス」と意気込む。
それを形にしたのは、今月12日に栃木県総合文化センターで開いた歴史学者で静岡大の小和田哲男名誉教授(77)の講演会だ。小和田氏は数々の大河ドラマの時代考証を手掛けているが、昨年監修した書籍「鬼滅の日本史」で、秀郷を「平安時代の鬼殺隊」に例えており、当日は300人の歴史ファンらが詰めかけた。
また、会友で元産経新聞記者の水野拓昌氏(56)が今年3月、「藤原秀郷 小説・平将門を討った最初の武士」を出版した。水野氏は記者時代に「坂東武士の系譜」を連載。本では、歴史研究家として秀郷の生い立ちから青年期などを史実や伝説を元に描いている。
活動を始めてはや5年。宮本さんは「将来的には(秀郷が主役の)NHKの大河ドラマの原作になれば」と青写真を描く。実際、来年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』には、秀郷の子孫らが5人も登場する予定で、未来に期待を膨らませる。
宮本さんは「秀郷を知ることで、地元に誇りを持ってもらい、県の魅力度向上につなげたい」と力を込めて語った。
筆者:松沢真美(産経新聞)