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めぐみちゃん、こんにちは。あなたを救い出せないまま、また一年が過ぎ、新しい年を迎えてしまいました。昨年、お父さんが天国に召されてから、飛ぶように時間がたちました。お母さんも4日で85歳を迎えました。新型コロナウイルスの災厄が世界に広がる中で、拉致事件解決への展望が見えず、焦りや怒りが募りますが、めぐみちゃんたち被害者全員が祖国の土を踏めることを信じて、祈り、訴え続けています。
クリスマス、そして大みそか。めぐみちゃんがいたころのわが家は、それはにぎやかでしたね。年の瀬を過ぎれば、すがすがしいお正月を迎えたものです。お母さんは今、一人の時間が長くなり、己の人生を振り返り、世の中の動きを見つめ、思いをめぐらせています。
「なぜ、めぐみたちは連れ去られてしまったのか」「なぜ、これほど長い間、救えないのか」
答えの出ない自問は尽きず、永遠のように続きます。年の瀬から皆さまへのご連絡は電話やメールにとどめました。お父さんが天に召され、年賀のごあいさつもできず、時間があっという間に過ぎました。
最近、日本は厳しい寒さです。北朝鮮にいるめぐみちゃんたちは、より過酷な生活を強いられていることでしょう。じっとそんなことを考えると、本当に胸が張り裂けそうになります。
被害者と家族、日本の国民、そして拉致解決を祈る世界中の皆さまの思いに支えられて救出運動は大きく前進しました。でも、すべての被害者が帰国しなければ、解決ではありません。
時の流れは等しく、人は老い、病んでいきます。再会を待ち望む私たちに、残された時間は本当に、本当にわずかです。
日本政府、政治家、官僚の皆さま。被害者を最後に救うのは、国家の力に他なりません。今、この瞬間も大切な時間が過ぎていきます。知恵を絞り、国会などの真剣な議論を通して、どうか、わがこととして、一命を賭して、拉致問題をすっきりと解決させ、世界に平和をもたらしてください。そう一心に祈りながら日々を過ごしています。
身代わりになってあげたい
昨年は、これまでにも増して、むなしさと焦燥感が募る一年でした。2月に有本嘉代子さんが94歳で天に召され、7月には地村保さんも93歳で旅立たれました。
お母さんもどんどん年を取るだけで、誕生日はちっともうれしくありません。講演で全国を回るようなことは、とてもとても、できない状態です。体中に衰えを感じ、声が出にくくなり、ひとつづきに話そうとすると息が切れます。
お父さんの遺影には、毎朝、「おはよう。今日も頑張ろうね」と声をかけ、折に触れて、出来事を報告します。生前と同じ、ニコニコとした笑顔を眺めるたびに「単身赴任で天国に行ったのかな」と思うくらい、すぐそばにいる感覚です。
日本では、国会が始まりました。私たちには、難しい国際関係や、政治の事情は知る由もありませんが、「国を思い、拉致を必ず解決する政治を実現していただきたい」という願いはずっと、変わっていません。
拉致事件の解決。そして新型コロナの克服。命をいかに守り、育むのか、政治に課せられた期待と使命は限りなく、大きなものなのではないでしょうか。
私たち家族の思いはずっと変わりませんが、あまりに長い時間が過ぎました。非道な拉致が実行されてから40年以上がたちました。平成14年に北朝鮮が謝罪し、蓮池(はすいけ)薫さん、祐木子さん夫妻、地村保志さん、富貴恵さん夫妻、曽我ひとみさんの5人の被害者が帰国してからも、20年近くが過ぎました。当時はまだ生まれていなかった若者たちが多くいます。拉致事件の風化は、現実になりつつあります。
昨年、拉致解決を最重要課題に掲げた安倍晋三首相が退かれ、菅義偉(すが・よしひで)さんが首相に就かれました。米国でも、被害者と家族に思いを寄せてくださったトランプ大統領に代わり、バイデン氏が就任しました。引き続き、事態の進展にわずかな希望を抱いていますが、依然、兆しは見えません。
昨年11月、キリスト教の祈りの仲間が平成12年から開いてきてくださった祈り会が、200回となりました。こんなにも長い間、めぐみちゃんの姿が見えない現実を痛感しますが、もはや、細かいことを振り返る時期ではありません。
めぐみちゃんの帰国が実現するのならば、お母さんが身代わりになってあげたい。同じ思いを、被害者の家族は抱いています。拉致は、人の命を肉親と故郷から引き離し、閉じ込めるものです。解決できなければ「国家の恥」です。もっと根本的に、日本は今、何をすべきなのか。国民の皆さまにはぜひ、拉致を、わがこととしてとらえ、声を上げていただきたいのです。
そして、北朝鮮は、被害者の命を政治や外交の取引材料に使うことを、今すぐやめるべきです。最高指導者は、拉致解決への決断が世界の幸せに直結するということを、どうか理解してほしいのです。
尋常ではない人生を送りながらも、心が平安でいられるのは、奇跡的なことだと思います。これも、皆さまの支えと、救いがあってこそだと痛感します。先が見えず、むなしい気持ちもありますが、何とか、力をふり絞っていきます。
めぐみちゃん。お母さんはだいぶ弱ってきてしまったけれど、決してあきらめません。めぐみちゃんもあきらめず、再会の日まで、身体に気を付けて過ごしてね。弟の拓也、哲也、そしてお父さんとともに、帰りを待っています。
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2021年2月4日付産経新聞【めぐみへの手紙】を転載しています