ウクライナ東部ハリコフで人道支援物資を受け取る住民
=5月26日(ロイター)
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ウクライナ東部のドネツク、ルガンスク、南部のヘルソン、ザポロジエ各州のロシア軍占領地でロシアが、ウクライナ国民に対するロシア国籍付与など露骨なロシア化政策を進めている。
ウクライナの主権を踏みにじる暴挙であり、容認できない。
南部2州ではロシア国籍の取得手続きを簡素化した。ロシア居住歴やロシア語能力がなくても申請を認めるようになった。ロシアの旅券配布も始まった。
ロシアへの編入の是非を問う住民投票も計画されている。ロシア軍占領下のヘルソン州の行政担当者は、同州が請願する形で編入を求める方針を表明した。
プーチン露大統領は2014年に侵略、併合したクリミア半島に加え、これら4州もロシア化して戦果にしたいのだろう。
ルガンスク州のセベロドネツクなどでは激戦が続き、多くの住民が危険にさらされている。ロシアは侵略をやめ、直ちに軍を撤退させるべきだ。
日本を含む国際社会は、ロシアの侵略を成功させてはならない。ウクライナの主権を蹂躙(じゅうりん)する「力による現状変更」は許されない。このような暴挙がまかり通れば、東アジアを含む世界の秩序が揺らぐことにもなりかねない。
国籍付与など占領地のロシア化政策と並んで見過ごせないのは、ロシア軍の占領地から大勢のウクライナ国民がロシアへ連れ去られている問題だ。
ロシア政府は人道的措置として子供26万人を含む160万人超の「避難者」をロシア国内に受け入れたとしている。だが、ウクライナは国民を拉致されたと非難している。ロシアの言い分を鵜吞(うの)みにすることはできない。
ロシアの人口は約1億4600万人だが、36年までに最大で1千万人以上減少するとの試算もある。人口減はロシアの国力低下につながる。プーチン政権は、ウクライナの領土だけでなく、同国民をも掠(かす)め取ろうというのか。
想起されるのは先の大戦後のソ連の不当な振る舞いだ。
ソ連は日本人をシベリアへ抑留し、強制労働に従事させ、多くの命を奪った。北方領土や樺太で暮らしていた日本人を追放した。
国連人権理事会の調査委員会はウクライナ国民の連れ去りを問題視している。実態の解明と確実な帰国実現が急務である。
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2022年6月19日付産経新聞【主張】を転載しています