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米東部ペンシルベニア州での大統領選の選挙集会で演説していたトランプ前大統領が狙撃された。トランプ氏は右耳を負傷したが命に別条はなかった。聴衆1人が死亡し、2人が重傷を負った。大統領警護隊(シークレットサービス)が容疑者を射殺した。
世界に衝撃が走った。2年前の参院選時に奈良県で起きた安倍晋三元首相暗殺を想起した人は多かったのではないか。
候補者の生命を狙い、選挙を歪(ゆが)めようとするテロリズムは民主主義を否定する最低最悪の犯罪だ。選挙や言論を暴力で封殺しようとするのは独善かつ卑劣で絶対に許されない。
自由と民主主義を遵奉(じゅんぽう)する国々の中でも米国の大統領は際立った影響力を持つ。その候補者が凶弾に倒れれば、世界の情勢と民主主義に与える打撃は計り知れない。
バイデン米大統領は会見で「米国にこのような暴力が許される場所はない」と強く非難し、徹底的に捜査を進めるとした。容疑者は20歳の男と報じられている。動機や背景の全容を解明すべきだ。同時に、狙撃を許してしまった警備、遊説体制を急ぎ改善し、テロ再発を防がなくてはならない。
暗殺未遂は大統領選の激戦州で発生した。会場外の高所から複数回発砲があり、トランプ氏は流血した右耳を押さえてしゃがみ込んだ後、警護陣に囲まれ立ち上がった。健在を示そうとしたのか、拳を突き上げて会場を後にした。トランプ氏はSNSに「私たちの国でこのようなことが起こるとは信じられない」「大量に出血し、何が起きたか理解した」と投稿した。
トランプ氏は予定通り、15日から始まる共和党全国大会で共和党候補の指名を受ける。
暗殺未遂は大統領選が米国の民主主義を守る重要な戦いでもあることを印象付けた。今回のテロへの最も効果的な反撃は警備を強化しつつ大統領選を整然と行うことだ。
バイデン、トランプ両氏は、卑劣な暴力を寄せ付けない言論の力を選挙戦で存分に示してもらいたい。
日本でも、今回の事件に刺激されたテロリストが現れる恐れはある。自民党総裁選や立憲民主党代表選、衆院選などが控えている。徹底した備えが必要である。
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2024年7月15日付産経新聞【主張】を転載しています