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国際オリンピック委員会(IOC)の独善的な振る舞いが目に余る。
国際大会から除外されているロシア、ベラルーシ両国の選手について、「中立」や個人参加を条件に復帰を認めるよう、各国際競技連盟(IF)に勧告した。
「スポーツは排除や分断ではない方法で平和への扉を開くことができる」としたバッハIOC会長の言い分は、数々の戦争犯罪を伴うロシアによるウクライナ侵略から目をそむけた空論だ。ウクライナ選手らの忍耐を前提としている点では、許し難い暴論でもある。
IFがロシア勢の復帰を認めたフェンシングでは、反発するドイツやフランスの連盟が自国での国際大会を中止した。IOCの常軌を逸した対応は、深刻な混乱をもたらしている。勧告は即座に撤回されなければならない。
ロシア勢の処遇を議論する上で大事なことは、彼らの権利ではない。復帰の条件はロシア軍の撤退以外にあり得ないという原則を、改めて確認しておきたい。
「平和への扉を開く」という発想自体、バッハ氏の思い上がりである。助け舟ともいえる今回の勧告に対し、ロシア・オリンピック委員会は「条件は絶対に容認できない。国籍による差別だ」と破れかぶれのIOC批判を展開しているではないか。ロシアには侵略への罪悪感も反省もない。除外の継続が正しい道だ。
混乱の責任は日本にもある。
山下泰裕・日本オリンピック委員会(JOC)会長や、国際体操連盟の渡辺守成会長はIOCの方針に賛意を示している。侵略戦争に対する危機感の欠如には、啞然(あぜん)とさせられる。IOC委員でもある両氏には翻意を促したい。できないのなら、静かにしてもらいたい。日本スポーツ界の良識を疑われずに済むからだ。
ロシア勢の除外を巡ってはIFによって対応が割れている。風向きは予断を許さないが、希望がないわけではない。
スポーツ選手の権利向上を目指す支援団体によれば、フェンシングの300人以上の現役選手と元選手が「除外継続」を求める書簡に署名した。女子サーブルで世界ランキング1位の江村美咲ら日本の7選手も含まれるという。
日本のスポーツ界にも良識を持ったアスリートがいることに、救われる思いがする。
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2023年4月9日付産経新聞【主張】を転載しています