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中国の習近平政権が掲げる厳格な新型コロナウイルス対策「ゼロコロナ」に対する抗議活動が北京や上海など中国各地で広がっている。抗議では、「独裁不要」「習近平退陣」などが叫ばれている。
共産党が厳しい言論統制を敷く監視国家で、これほど直接的な政権批判が出ることは極めて異例だ。習氏がコロナ対策をめぐり、西側諸国との比較で自賛してきた「体制の優位」が、国民によって否定された形だ。習政権は抗議を真摯(しんし)に受け止め、柔軟なコロナ政策に切り替えなければならない。勇気を出して声を上げた人々を弾圧する資格はないと知るべきである。
抗議のきっかけは新疆ウイグル自治区ウルムチ市で24日に起きた火災の犠牲者を追悼する集会だった。火災のあった高層住宅周辺がコロナ対策で封鎖され、救助が遅れたとの見方がネットを中心に広がった。同市でデモが行われると、それに連帯を示す形で他都市にも広がった。
参加者らは、「もうだまっていられない」「自由がほしい」とも叫び、抗議の意思を示す白い紙を掲げた。習氏の母校である清華大学をはじめ、首都の北京で本格的な抗議が行われたのは、1989年の天安門事件以来とも指摘されている。
厳しい都市封鎖と行動制限を伴う「ゼロコロナ」は習政権の看板政策だ。習氏は2年前の演説で、コロナ禍に苦しんだ欧米を念頭に「中国共産党の指導とわが国の社会主義制度の顕著な優位性を示している」と自賛していた。
ゼロコロナは初期の感染拡大防止では一定の効果があったかもしれない。だが、毒性が弱まった変異株の出現以降、負の側面があらわになった。経済活動は停滞し、多くの人が職を失った。コロナ前の日常へ戻る見通しがない中で人々の忍耐は限界に達していた。
中国製コロナワクチンは欧米産に比べ効果が低かった。それでも習政権は欧米産に頼って社会活動を正常化する道を歩まなかった。最大の問題は、状況の変化や民意を無視し続け、ゼロコロナにこだわり続けた習政権の硬直性にある。共産党独裁体制の欠陥だ。
習政権が批判をかわそうと尖閣諸島(沖縄県)や台湾、南シナ海などで対外強硬策に出る恐れもある。日本と世界は備えを怠ってはならない。
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2022年11月30日付産経新聞【主張】を転載しています