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東京五輪は本格的に各種目の競技が始まった。
柔道では男子60キロ級で高藤直寿が今大会日本選手団1号となる金メダルを首にかけた。女子48キロ級でも渡名喜風南が銀メダルを獲得した。
そうした中でショックだったのは、日本の体操界、スポーツ界の象徴的存在だった内村航平が鉄棒から落下したことだ。種目別の鉄棒一本に絞って4大会連続の五輪に臨んだ内村は予選敗退が決まり、これで大会を去る。
残酷なようだが、これがオリンピックの怖さであり、ドラマである。勝者がいれば、必ず敗者がいる。それが競技の真実でもある。だが、オールラウンダーとして五輪の個人総合で連覇を飾り、美しい演技で日本の団体を牽引(けんいん)してきた内村の偉業は損なわれない。
観戦の基本は「勝者には祝福を、敗者にはいたわりを」だ。内村のような偉大な敗者には盛大な拍手を送りたい。
新型コロナウイルスの感染拡大をめぐって開催への賛否が渦巻いた東京五輪について、「できないではなくて、どうしたらできるかを考えてほしい」と話して心ない非難を浴びたこともあった。
それはアスリートを代表して述べた言葉であり、批判の対象となるべきではなかった。
予選では難度の高い「ブレトシュナイダー」などの手離し技を3連続で成功させた直後、ひねり技で鉄棒を握り損ねて落下した。それでも続行した演技で着地を見事に決めたのは、さすがだった。
改めて大会1年延期の難しさを思う。度重なる故障で満身創痍(そうい)の32歳に、1年の延期がどれだけ負担だったか。
選手の事情などお構いなしに、2年、あるいは4年の延期を主張した識者、政治家らには、自身の発言がどれだけ無神経なものだったかを知ってほしい。
5大会連続出場、2大会連続メダルの重量挙げ女子、35歳の三宅宏実も試技を失敗して記録を残せず、現役引退を表明した。三宅も故障と戦いながら、苦しい延期の1年間を送ってきた。
一方で体操の予選では、内村を仰ぎみて成長した若い代表メンバーが6種目合計で中国を抑えて首位に立った。個人総合でも橋本大輝がトップに立っている。
英雄の退場、若者の躍進、その全てに声援を送りたい。
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2021年7月25日付産経新聞【主張】を転載しています