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帰国命令を拒否した東京五輪女子陸上競技のベラルーシ代表、クリスツィナ・ツィマノウスカヤ選手が人道査証(ビザ)を発給したポーランドに亡命した。
スポーツの祭典で起きた異常事態である。ロシアのメディアは、ベラルーシのルカシェンコ大統領が強制帰国を指示した可能性があると伝えた。
五輪を国威発揚の場として期待したが、振るわぬ成績に激怒したとの見方が有力だ。亡命はベラルーシの目に余る強権統治体制が背景にあるとみるべきだろう。
自国民の代表を恐怖に陥れ、帰国を拒む行動に走らせるルカシェンコ氏の独裁的な振る舞いは許されない。国際社会は人権弾圧を続ける政権に対し監視の目を緩めてはならない。
ツィマノウスカヤ選手は2日の200メートルに出場予定だったが、コーチによって同意なく、出場経験のない1600メートルリレーに出場登録されたとの不満をSNS(会員制交流サイト)に投稿した。これが当局批判と捉えられ、チーム側から強制帰国させられそうになった。ツィマノウスカヤ選手は帰れば投獄されると帰国を拒否し、東京・羽田空港で保護された。
自由や民主主義という普遍的な価値観を共有する諸国においてはあり得ない出来事である。
ブリンケン米国務長官は、ベラルーシの対応について「国境を越えた抑圧行為だ。基本的権利への侮辱であり、容認できない」と述べ、欧州連合(EU)も「残忍な抑圧だ」とベラルーシの対応を批判した。
ベラルーシでは、ルカシェンコ氏による強権政治が四半世紀にわたって続いている。政権を批判すれば反逆罪とみなされるほど言論の自由が封じられ、今でも反体制派が弾圧されている。昨年8月の大統領選で6選を決めたルカシェンコ氏は、不正を訴える市民による大規模抗議デモを暴力で弾圧し、多数の死者を出した。
ルカシェンコ氏の独裁を許しているのは、政治、経済で後ろ盾になっているロシアのプーチン大統領の存在だ。プーチン氏はベラルーシで反政権デモが起きるたびに、ルカシェンコ氏への支持を鮮明にしてきた。
日本は欧米諸国と歩調を合わせてルカシェンコ政権への圧力を強めるとともに、ロシアにも自制を求めていかねばならない。
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2021年8月7日付産経新聞【主張】を転載しています