ウクライナ南部のザポロジエ原発の近くで
警戒にあたるロシア側兵士
=8月4日(ロイター)
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占領した原子力発電所の攻撃拠点化は深刻な放射能汚染事故と隣り合わせの暴挙だ。ロシア軍の即時退去を求めたい。
戦闘が激化する中、ウクライナ南部のザポロジエ原子力発電所に5日以降、ロケット弾が撃ち込まれ、使用済み燃料の貯蔵施設周辺に着弾し、放射線量の計測器が損傷した。原子炉1基も運転停止に陥っているという。
使用済み燃料や原子炉が損傷すると多数の国々に影響が及ぶ。旧ソ連時代のウクライナでチェルノブイリ原発事故を起こしたロシアは何も学んでいないのか。
ザポロジエ原発には原子炉6基の建屋が並ぶ。ウクライナの全電力の2割を生産し欧州で最大規模の原子力発電所だ。
今年2月末にウクライナ侵攻を開始したロシア軍は3月4日からザポロジエ原発を占拠しており、押し入ったときにも発電所構内で火災が起きている。
ロシア軍は廃止中のチェルノブイリ原発も一時期占拠したが、その後、撤退したのに対し、ザポロジエ原発では構内に大量の兵器を搬入し、攻撃の拠点にしていると伝えられる。同原発からロケット砲などを発射してもウクライナ軍の反撃を受けずに済む「核の盾」とする狡猾(こうかつ)、非道な作戦だ。
発電所への砲撃についてロシア側は、ウクライナ軍の攻撃によるものだとしているが、果たしてそうか。一つはっきりしているのは、ロシア軍が占拠していなければ発生し得なかった被弾であるということだ。
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は国連安全保障理事会での演説で、同原発への立ち入りを求めるなど核災害のリスクに強い懸念を示している。
危うさを増しているのはロシア兵の無知である。チェルノブイリ占拠の際には、放射能汚染土を掘り返して塹壕を作り、兵士たちが被曝したとの情報がある。
武力紛争に関わるジュネーブ条約でも原発への攻撃は第56条で禁止されている。戦車で突入したロシア軍は5カ月間にわたって同条約への違背を続けているのだ。
ロシア軍はザポロジエ原発が立地するウクライナ南部に向けて兵力を集結しつつある。原発被災の確率は刻々と高まる一方だ。
核災害の危機を回避できるのはロシアの大統領、プーチン氏をおいて他にない。
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2022年8月14日付産経新聞【主張】を転載しています