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ダムを破壊したり、原子力発電所を危機的状況に陥らせたりするのは国際人道法(戦時国際法)の柱であるジュネーブ条約の第2追加議定書に反する戦争犯罪だ。
このような恐ろしい事態が、ロシアが侵略し、占領しているウクライナの地で現実になった。到底容認できない。
ウクライナ南部のドニエプル川流域のカホフカ水力発電所のダムが爆破によって破壊され、下流では洪水から逃れようと住民の避難が始まっている。
洪水と水力発電所の停止だけでも大変な事態であるのに、欧州最大規模のザポロジエ原発の安全まで脅かされている。
このダムでせき止められたカホフカ貯水池の面積は琵琶湖の3倍超だ。水量は18立方キロメートルで、琵琶湖の3分の2に及ぶ。ダムから約200キロ上流のザポロジエ原発は同貯水池の畔(ほとり)に位置し、冷却水を取り込んでいる。
貯水池の水位低下で、同原発の冷却水確保に支障をきたすのではないかと懸念されている。
この原発もロシア軍が占領し、軍事拠点化している。原発をモニターしている国際原子力機関(IAEA)は現時点で差し迫ったリスクはないとしたが楽観は許されない。IAEAはグロッシ事務局長のウクライナ急派を決めた。
国連安保理の緊急公開会合ではウクライナとロシアがそれぞれ、相手が破壊したと主張し、非難の応酬となった。
自国に多大な被害が及び、対露反攻の妨げになりかねないことから、ウクライナ側にダム破壊の動機があるとは考えにくい。
このダムをめぐっては昨年10月、ロシア軍が爆薬を仕掛けたという情報が流れていた。
今回の爆破は、洪水を起こしたり、原発事故の恐れを示したりすることでウクライナ軍の反攻を退けようと、ロシア側が行った疑いが強い。
真相を解明し、戦争犯罪の責任者を処罰しなければならない。
安保理緊急公開会合で欧米各国は、ロシアのウクライナ侵略こそがダム破壊にいたった根本的原因と指摘し、ロシアを非難した。その通りである。ロシアのウクライナ侵略という戦争犯罪が、新たな戦争犯罪を生んでいる。
プーチン露大統領は直ちに、軍を一兵残らず自国へ撤退させるべきだ。
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2023年6月8日付産経新聞【主張】を転載しています