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台湾の統一地方選は、蔡英文政権の与党・民主進歩党が最重要の台北市長選で敗れるなど大敗を喫し、蔡氏は党主席辞任を表明した。
中国政府の台湾事務弁公室は「平和や安定を求める民意の反映」とする談話を発表し、民進党の敗北を歓迎した。だが、蔡政権の大敗を対中国政策への批判とみるのは誤りだ。
民進党は外交・安全保障政策を重視し、中国の専制主義に対し、「自由と民主主義を守る」と訴えた。だが市長選で有権者の関心は、候補者の人柄や物価や景気といった内政問題に向かい、争点にはならなかった。
習近平主席は10月の中国共産党大会で、台湾問題について「祖国の完全統一は必ず実現しなければならず、必ず実現できる」と強い意欲を示し、「武力行使の放棄を決して約束しない」と述べた。
習政権が台湾併吞(へいどん)へさまざまに策を弄してくるであろうことは、容易に想像できる。
中国が近年、情報活動で自国に有利な状況を作る「影響力工作」を活発化させていることは、日本の防衛研究所の年次報告書「中国安全保障レポート2023」でも指摘されている。
中国が統一地方選の結果で勢いづき、武力を背景に、さまざまな工作を展開して台湾の人々の士気をくじこうとする恐れがある。選挙への介入を目的とするサイバー攻撃は特に警戒が必要だ。
2024年1月の総統選に向け、中国寄りとされる野党・国民党も民進党への圧力を強めてこよう。蔡政権が求心力を低下させる中で、台湾側が習政権にスキを見せることがあってはならない。
中国が台湾周辺で威嚇行為を活発化させる中、蔡政権は、中国を直接刺激する言動をたくみに避けながら、挑発には屈しない毅然(きぜん)たる態度を貫いてきた。
中国と対抗する上で、米欧、日本など民主主義国家との連携を強め、各国要人の往来、交流を活発化させた。
蔡政権には今後、選挙で批判を受けた内政を安定させるとともに、引き続き、自由と民主主義を守る大切さを台湾の人々に説き続けてもらいたい。
台湾危機に日本は無縁ではいられない。各国の先頭に立って、台湾との交流を深め、自由と民主主義を守るための支援を継続していかねばならない。
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2022年11月29日付産経新聞【主張】を転載しています
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