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令和5年版の防衛白書は、国家安全保障戦略など安保3文書の決定後初の白書として、防衛力の抜本的強化策を詳しく説明した点が特徴だ。
反撃能力(敵基地攻撃能力)について「侵攻を抑止する上で鍵となる」とした。ミサイル防衛を活用しつつ、相手からのさらなる武力行使を防ぐには、反撃能力保有が必要と説いたのは妥当である。
ロシアのウクライナ侵略を挙げて「高い軍事力を持つ国が、あるとき侵略という意思を持った」とし、「相手の能力に着目した防衛力を構築する必要」があると指摘した。脅威対処型の防衛力整備への転換を訴えたものだ。令和5年度から5年間の防衛費総額約43兆円について、弾薬・誘導弾2兆円、無人アセット防衛能力1兆円―など内訳を表で示した。
目指す防衛力の姿を理解してもらう記述が多いことは評価できる。一方で物足りなさもある。
第一は中国への評価だ。中国の「軍事動向など」は「深刻な懸念事項」で「最大の戦略的挑戦」としたが、それだけでいいのか。
東西冷戦期に政府はソ連を「潜在的脅威」と位置付けた。現代中国がそれ以下とは思えない。今回の白書は「戦後最大の試練の時を迎え、新たな危機の時代に突入」と記した。台湾との軍事バランスが中国側に有利な方向へ「急速に傾斜」しているとも分析した。もっと現状に即して中国を位置付けるべきだろう。
核問題の記述には一層の工夫を求めたい。北朝鮮や中国の核戦力増強、ロシアの核を用いた威嚇などを個別に指摘したが、核については独立した章も設けて、日本国民にとっての核脅威と、それに備える核抑止を取り上げてほしい。多くの国民に核抑止の重要性を認識してもらう必要がある。
国家安保戦略は、国民保護や防衛に資するインフラ整備、研究開発など総合的な防衛体制という概念を打ち出した。防衛省以外の省庁が主体となり政府横断的に取り組むべき重要課題だ。これら防衛省の担務外の記述は防衛白書では少ない。
岸田文雄政権は新しい白書をつくってもよいし、防衛白書を用いてもよい。総合的な防衛上の課題の意義や進捗(しんちょく)状況を国民に包括的に説明する義務を果たしてもらいたい。それはシェルター整備などを進める助けにもなるはずだ。
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2023年7月30日付産経新聞【主張】を転載しています