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住民投票で外国人と日本人を区別せずに投票権を認める条例案が、12月21日の東京都武蔵野市議会の本会議で否決された。
市議会が見識を示したもので、その判断を評価したい。成立すれば、他自治体に波及する恐れがあった。
住民投票は、安全保障やエネルギー政策など国益に関わる問題に影響を及ぼすこともあり得る。事の重大性を考えれば否決されて当然だ。条例案を提出した市は結果を重く受け止めねばならない。
条例案は、市内に3カ月以上住む18歳以上の日本人に加え、留学生や技能実習生ら外国人にも投票権を認める内容だ。13日の市議会総務委員会で可決された。21日は採決前の討論で「多様性ある町づくりに貢献する」「一定の基準が必要だ」などと賛否が分かれ、反対多数で否決された。
松下玲子市長は「市民への周知が足りなかったとの意見があった」と述べ、改めて条例案を検討する考えを示した。だが、そのような試みをすべきではない。
市長は、住民投票に法的拘束力はないと主張してきたが、条例案では「議会と市長は結果を尊重する」と明記されている。市や市議会の判断が投票結果に左右されれば、住民投票が政治的な意思決定プロセスに影響を与え、外国人参政権につながる懸念がある。
住民投票条例を定めた全国78自治体のうち、43自治体は外国人にも投票権を認めている。武蔵野市と違い、大半が永住者に限定するなど一定の基準を設けている。
最高裁は平成7年、憲法は外国人参政権を認めていないとする一方で、「地方公共団体と特段に緊密な関係をもつ人」に対し、地方参政権を与えることは憲法上禁止されていないとした。ただ、これには前提条件があり「在留外国人のうち永住者等」としている。3カ月しか住んでいない留学生や技能実習生を想定していない。
今回の条例案と同様の条例を18年に制定した神奈川県逗子市などでは、施行後、特に問題は起きていないという意見もある。だが、日米地位協定の見直しをめぐる8年の沖縄県の住民投票は国政を揺さぶった。今まで問題がなかったからといって、今後もないとは言えないはずだ。
市は通訳のいる相談窓口の増設など、外国人の多様なニーズに応える努力を優先すべきだろう。
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2021年12月22日付産経新聞【主張】を転載しています
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