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これでおそらく、大谷翔平は、野球に専念できるようになるだろう。ただし、これまで二人三脚で歩んできた相棒に裏切られた心の傷は別である。
米ロサンゼルスの連邦地検は銀行詐欺容疑で大谷の元通訳、水原一平容疑者を訴追したと発表した。違法賭博の借金を返済するため、大谷の口座から不正に送金した額は、約24億5千万円以上とされる。
連邦地検は「大谷は事件の被害者だ」と強調した。大リーグ機構もこれを受けて「大谷は詐欺の被害者とみなされ、違法な賭けを許可した証拠はない」と声明を出した。連邦地裁の判決を待ち、大谷自身は不問に付される公算が大きい。
連邦地検は送金の手口もつまびらかにし、水原容疑者は口座の連絡先を自身のものに変更するため、大谷の声色まで使って銀行に電話していた。
不正送金額の大きさには驚くばかりだ。米国では38州でスポーツ賭博が合法化されたが、カリフォルニア州では違法だ。違法だからこそ賭け金に上限がなく、ツケが利き、仮想通貨によるネットカジノで負債は雪だるま式に膨らんだ。
胴元と水原容疑者のやり取りが生々しい。負債が重なり、金策の不調を訴える容疑者に、それでも胴元は賭け金の上限を引き上げ続けた。水原容疑者はドジャースを去る際、チームメートに「私は賭博依存症です」と述べた。常識を大きく逸脱した賭け金や不正の手口が、それを証明している。
いよいよ連絡が取れなくなると、胴元は「いま大谷がビーチで犬を散歩させている。話しかけようか」とメッセージを送った。大谷に知られることを何より恐れる水原容疑者への、明白な脅しである。
払えるだけ払わせて最後は不正への関与をネタに恐喝する。悪の魔手の常道だ。逃げ道はない。ここまでくれば摘発を待つだけとなる。水原容疑者は胴元に「彼から盗んだ。俺は終わりだ」とも伝えている。
胴元はポーカーから水原容疑者を不正賭博に誘い込んだ。標的と定めたのは「大谷の親友だから」とも述べている。
危うきは、からめ手から君子に近づいてくる。誰しも泥沼にはまる可能性はある。改めてこの事件を、違法賭博の恐怖を胸に刻み込む教訓としたい。
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2024年4月13日付産経新聞【主張】を転載しています