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米大リーグの大谷翔平が一昨年に続く2度目のア・リーグ最優秀選手(MVP)に選ばれた。いずれも満票による受賞は大リーグ史上でも初めてだ。
これは大谷が、どれだけ米国でも愛されているかを物語る。
大谷は今季、エンゼルスで10勝を挙げ、44本塁打で日本選手初の本塁打王のタイトルを獲得した。「エースがホームラン王」という漫画のような奇跡が、もはや当然のごとく現実となっている。
実績だけでも受賞は当然といえるが、大リーグのMVPは全米野球記者協会会員30人の投票で決まる。ライバル選手の所属担当記者も含めて30人全員が1位票を投じる「満票」は、一部の記者に嫌われただけでも成し遂げられない。
グラウンドの内外で見せる、大谷の立ち居振る舞いの全てが2度目の満票MVPを後押ししたといえるだろう。
大谷は11月9日、日本の小学生に約6万個のジュニア用グラブを寄贈すると公表した。
「野球しようぜ!」と書かれた告知には「このグラブを使っていた子どもたちと、将来一緒に野球ができることを楽しみにしています」とあった。対象は全国の国公私立の全小学校と特別支援学校で、約2万校に各3個のグラブが贈られる。
ネット上には「3個ずつとはみみっちい」「各校で争奪戦が起きる」などの批判もみられたが、これは言いがかりだろう。3個には、意味がある。
野球はキャッチボールに始まる。3メートルでも5メートルでもいい。相手の捕りやすいところにボールを投げ、グラブで受ける。2個のグラブでそれは可能であり、3個なのは、1個は左利き用という配慮の細やかさだ。
寄贈の告知はMVP投票の締め切り後で、事前運動の邪推は当たらない。こうした行動をいやらしくなくできる大谷の、人間性への評価である。
大谷は今オフにエンゼルスからフリーエージェント(FA)となり、来季の新天地がどこになるのか。史上最高額が予想される契約金額や残留の可能性も含めて去就が注目される。
今季終盤に右ひじを手術した大谷は、来季は打席に専念し、投手としてのリハビリとの厳しい二刀流に臨むことになる。
いずれにせよ、大谷と野球の未来が楽しみで仕方がない。
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2023年11月18日付産経新聞【主張】を転載しています